【人口減少問題】出生率低下は晩婚化・晩産化のためで少子化はこれからも続く=自分で機会を作り自分で決断して出会いを求めていくしかない

会見する佐藤博樹東大名誉教授

 

ゲスト:佐藤博樹(さとう・ひろき、東京大学名誉教授)/中央大学ビジネススクール・フェロー
テーマ:「人口減少80万人割れの衝撃」(人口減少第1回)
2023年4月6日@日本記者クラブ

 

経済、社会、政治をはじめ、防衛、教育、社会保障などあらゆる分野に影響する「人口減少問題」をさまざまな切り口から考えるシリーズの第1回目が始まった。

「子ども政策の推進に係わる有識者会議」の構成員をはじめ、長年政府の少子化対策の検討に携わってきた佐藤博樹・東大名誉教授が第1回目に登壇し、出生率低下、未婚化の要因などについて解説した。

佐藤教授は、子育て支援は少子化対策の一部でしかないとし、少子化克服に向けては雇用環境の改善、働き方改革、意識の変革など複合的な対策が必要になると指摘した。

 

■子育て支援は少子化対策の一部

 

・少子化の一番の核心は未婚化、晩婚化だ。4月1日に各省庁にまたがっていた子どもに係わる政策部局を集めて一元的に施策を進める「こども家庭庁」が発足した。

・また政府は3月31日に少子化対策の具体化に向けた関係府省会議を開き、たたき台をまとめた。小倉少子化担当大臣は「国を挙げて少子化という最重要課題に取り組んでいかなければならない。この6~7年がラストチャンス」だと危機感を強調した。

・これで少子化対策は進むのか、あるいは子育て支援に留まるのか。双方は重なる部分はあるが、違う。子育て支援を充実させることは子育て対策につながる部分はあるが、少子化という課題を解決するためにはもう少し広い取り組みが必要だ。

・今秋にこども大綱を作る予定だ。少子化社会対策大綱、子ども・若者育成支援推進大綱、子どもの貧困対策に関する3つの大綱を一元化したものだ。

・こども大綱を受けて各自治体が子ども計画を策定することになっており、「こども大綱」がどういうものになるかが重要だ。

 

■少子化対策は難しい

 

・なぜ出生率が低下してきているのか。少子化対策とはこの出生率を改善する取り組みだ。出生率を下げている要因は何かをきちっと把握することが大事になる。

・出生率が下がる理由は何か。結婚しているカップルが持つ子どもの数(有配偶出生率)が2~3人が一般的だったのが1人とか2人になる。80年代以降は緩やかに増加している(最近は減少している)。

・婚姻率が70年代以降、大きく低下している。未婚化が進んだ結果、日本社会全体の出生率を引き下げている。1975年から2005年の出生率低下のほぼ80%は初婚行動(未婚化・晩婚化)の変化による。

・女性の平均初婚年齢は1980年25.2歳、1994年26.2歳、2001年27.2歳、2006年28.2歳、2019年29.6歳と徐々に下がっている。晩婚になれば第1子持つ時期も遅れ晩産化する。1人目持てても人目持ちにくい。

・晩婚・晩産で妊娠確率は低下する。現在で言えば日本で生まれた子どもの14人に1人は不妊治療で生まれた生殖医療によるものだ。

・未婚率が上がるだけでなく、結婚年齢が30歳を超えると子ども数は平均2人を下回る傾向がある。

・出生率の減少には女性の人口減も大きく影響している。40歳くらいまでの女性の数が減ってくると、分母が減るわけだから生まれてくる子どもの数も減ってくる。

 

■男性の家事や育児参加が重要

 

・子育てしながらフルタイムで勤務を継続するのが難しい。片働きになる。女性がやめてしまって夫が稼ぐ。カップルでフルタイム勤務が継続できることが一般化していくことが重要だ。

・非正規労働者の雇用安定化と処遇の改善が必要だ。

・子どもが欲しいけどできない。キャリアと結婚・子育ての二者択一状況の解消

・男性が家事や長い子育てに参加することが重要。「点」としての育休取得でなく、長い子育てへの参加を奨励したい。女性の中には「私も時々残業したい」人も時々いる。

・育児休業も夫婦で半年ずつ取るのが所得補償上もいい。育児休業や短時間勤務を手厚くすることよりも柔軟なフルタイム勤務が重要だ。

 

子育て支援は少子化対策として貢献できるのか?

 

■職縁からマッチングアプリ活用の時代へ

 

・未婚化問題が解消しないと少子化問題は解消しない。第16回出生動向基本調査(21年6月実施)によると、未婚者(18歳から34歳)のうち、「いずれ結婚するつもり」が男女とも8割を超えている。以前は9割だったが、最近は8割台に減ってきている。「独身のままでいいや」という人が徐々に増えている。

・「いずれ結婚するつもり」と結婚意思を持つ者では「ある程度の年齢までに結婚するつもり」と「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」が半々だったが、後者が増えている。

・結婚相手に求める条件では男女ともに「人柄」に次いで、「家事・育児の能力や姿勢」や「仕事への理解と協力」を指摘しているが、女性では男性に「家事・育児の能力や姿勢」「経済力」を求める程度が高い。

・1年以内に結婚する意思を持つ者の割合は、男性では就業形態で異なり、正規に比較して非正規で低くなる。

・未婚の人でいずれ結婚したい人が8割超えているにもかかわらず未婚のままなのというと、25歳から34歳で一番多いのは「適当な相手に巡り会わないから」(男性43.3%、女性48.1%)。なかなか出会えない。職縁に代わる場がない。

・高度成長時代はどこで出会ったかというと勤務先の職場。会社関係で仕事を通じて出会って結婚した人が多かった。女性は辞める。新しい女性が入ってくる。職場が見合い場所だった。

・一度マッチングが起きないともう相手いない。出て行かないとパートナー見つからない。職場で出会って付き合っている人の割合は落ち込んでいる。

 

未婚化の現状

 

■未婚化の現状

 

・未婚者のうち「交際している異性がいない」者が多い。交際している恋人や婚約者のいる10人に1人以上がインターネットを使ったサービスで交際相手と出会っている。

・家と会社の往復しているだけでは出会えない。それ以外の場に出て行けるかどうか。

・自分で出会える機会を作って自分でそのパートナーと結婚しようと決断することが必要になってくる。職場の上司が「そろそろ結婚したら」などと言ったらセクハラになる。自分で機会を作って決断しないと結婚につながらない時代だ。

・ビジネススクールで勉強する。ボランティアで一生懸命やる。職場で働いていたときに見えていた異性の違った側面が見えたりする。大事なのは色んな人と出会える場に出ていくことが大事だ。働き方改革が必要だ。

・平日はいつも残業で夜帰るのは9時10時では無理。土曜は家で寝ているだけ。平日の週2日くらいは勉強会や社会貢献活動、ボランティア活動などができるような、職場と違うような人と出会えることが結果的にパートナーに出会える場にもなる。

・若い男女が入ってくる仕組みを作らないと難しい。色んなことをやっていく。独身の人もいろんな人と出会える場所を作らないとパートナーと出会えないことを意識してもらいたい。

・学びの場が出会いの場になる。「そのうちいい人に出会える」と思っている人がいるが、出会えないのが普通だ。

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