平櫛田中館「気楽坊」

 日本近代木彫界の巨匠、平櫛田中(ひらぐし・でんちゅう)が終焉の地として選んだのが東京都小平市。彼の住んだ館は 、「平櫛田中館」(東京都小平市学園西町1-7-5)として展示館ともども一般公開されている。よく晴れた暖かな秋日、訪ねた。彼が100歳のときに、20年先の制作を想定して取り寄せた彫刻用の楠の巨大な原木が今も玄関脇に聳え立ち、制作意欲の旺盛さを見せ付けてくれる。

 平櫛田中は1872年(明治5年)岡山県井原市生まれ。1882年に平櫛家の養子となり、1893年、大阪の中谷省古に弟子入りし、木彫の手ほどきを受けた。1898年には上京し、107歳で永眠するまで、精力的に彫刻活動を続けた。代表作の六代目尾上菊五郎演じる「鏡獅子」(木彫彩色、高さ2m)は国立劇場の正面ホールに展示されている。

 たくさんの作品が展示されている中で、とりわけ気に入ったのが「気楽坊」(1961年、高さ19.5cm)。徳川秀忠の娘と政略結婚させられたことに不満だった後水尾天皇(ごみずのおてんのう、1596-1680)が作らせた指人形「気楽坊」から命名したという。後水尾天皇の残した歌がまた、ふるっている。

 世の中は気楽に暮らせ何ごとも
 思えば思う思わねばこそ      

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.