「いのち」と向き合う

  講演を聴いていて、涙腺が緩んできて、不覚にも涙を流した。映画館で涙を流すことはときどきあるが、何と講演会である。人の話を聴きながら、涙が出てくるというのはにわかには信じがたかった。

 講演は数え切れないほど聴いている。1日に2度3度とはしごをすることもある。今は仕事で講演会の事務局長もしている。長時間でなくても、人の話を聴くのが仕事のようなものだ。それでも、人の話を聴いて涙が出てきた経験はいまだかってなかったのに。

 11月18日(土)、園田学園女子大学(兵庫県尼崎市南塚口町7-29-1)人間健康学部の第4回学術講演会。講師は六甲病院緩和ケア病棟チャプレン、カウンセラーの沼野尚美さん。演題は「いのちと向き合う」~生と死を見つめて共に生きる~。

 癌の末期症状患者の住むのが緩和ケア病棟。ホスピス病棟のほうが通りがよいかもしれない。「カウンセラー」は精神的、心理的な援助者だが、初めて聞いた「チャプレン」というのは宗教的な援助者のことを言うそうだ。そこで患者たちと日々向き合っている。

・幸せは自分が決めるもの。その人の心の持ち方、在り方だ。
・大切なのは時間の長さではなく、どれだけしっかりとその人と向き合ったかだ。
・人を愛するだけではだめ。その人が愛されていることを感じさせることだ。「あなたは大切な人なんですよ」ということを相手に感じさせることが大切だ。
・人間は1人では生きられない。人の援助が必要だ。最も必要なときは誕生のときと旅立ちのとき。
・「暖かい存在感」を伝えること。「存在感の暖かさ」を感じさせることが大切だ。あの人と一緒にいると心が落ち着く、気持ちがなごむと思われるような存在になること。
・しっかり聴くということ。
・人間はどんなに苦しいことがあっても、耐えてでも生きようとする。「それでも生きたい」というのが人間だ。
・日本人は悟りの民族。言わなくても相手は分かってくれると思っている。しかし、分かっていても、人に言ってもらいたい言葉というのはある。それも、最もタイムリーに人を生かす言葉を伝えることが重要だ。許されるときにその言葉を伝えておくことが重要だ。

 人間看護学科を含む人間健康学部の若い学生さんが聴衆。卒業後、職業人として「いのち」と係わる仕事に就く人たちだ。講師もそのあたりを踏まえた上で、いのちの尊厳と生きる喜びを高めるヒューマンケア実現の軸となる「向き合う力」能力の重要性を訴えた。

 必要なときに、タイムリーにきちんと言葉で言っておくことの重要性を教えられた。それがなかなか実践できない。「悟りの民族」も分かるが、やはり、しっかり言葉で言っておくことの必要性も感じている。肉親や配偶者、本当に親しい人たちに対して、自分がどれだけ、きちんと伝えてきたか。今からでも遅くない。

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