恩田陸著「夜のピクニック」

 恩田陸著「夜のピクニック」(新潮文庫)を読んだ。2005年に吉川英治文学新人賞と本屋大賞を受賞した作品だ。映画化され、今年公開されたので、観たいと思っていたが、見逃した。恐らく、原作のほうが良いのではないか。

 高校生活最後を飾る「歩行祭」というイベントでの高3の男女(西脇融と甲田貴子)の心理を中心に淡々と書かれている。その歩行祭は全校生徒が夜を徹して80キロを歩き通すだけ。しかし、歩き続けることで、新しい何かが生まれる。実に不思議な世界だ。

 ひたすら歩きながら、次から次へと想念が湧き上がり、一度浮かんだ想念はすぐさまそれを打ち消す新たな想念に取って代わられる。それを繰り返しながらも、ある1つの考えに収斂していく。それはいつの間にか確固たる確信に変質していく。単独で山歩きするときによく経験する心理の葛藤だ。

 1つの確信に到達する過程では肯定と否定のすさまじい葛藤が展開される。その葛藤が激しければ激しいほど、そこから生まれた確信の安定度は高い。面白いものだ。葛藤の過程で、想念は捨象され、研ぎ澄まされる。最後に残るのが確信の核ではないか。

 読みながら、否応なく自分の高校生時代を思い出してしまう。いくら熱い想念が2人の間を飛び交ったとしても、たとえすさまじい葛藤が交錯したとしても、文章として定着させるのは至難の業だ。その無理を可能にしたので、文学として評価されたのだろう。”永遠の青春小説”と言われる所以である。
 

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