『ハダカの城』

 『ハダカの城~西宮冷蔵・水谷洋一~』を観た。柴田誠監督・撮影・編集。第七藝術劇場(大阪市淀川区十三本町)。国のBSE(狂牛病)対策である国産牛肉買い取り制度を悪用し、国産牛に偽装した豪州産牛肉を国に買い取り申請した雪印食品を告発した水谷洋一西宮冷蔵社長の再建に向けた動きを追ったドキュメンタリー映画だ。

 雪印食品は2002年1月23日の朝日、毎日両新聞に対する告発から3カ月で解体に追い込まれたが、西宮冷蔵自体も国土交通省から在庫証明書改ざんを理由に営業停止処分を受け、取引停止による経営危機に直面、同年11月末、廃業を余儀なくされた。

 水谷社長はその直後、全国から届いた励ましの声を頼りに再建を決意。03年10月から大阪梅田の曾根崎陸橋で再建に向けた活動(露店での書籍販売)を開始した。彼の怒りは社会正義が踏みにじられる現実に対して向けられる。

 具体的には内部告発した彼を廃業に追い込んだ社会システムに向けられている。告発した西宮冷蔵の息を止めることによって、畜産業界に逆らう者への見せしめにしようとする業界の意思を告発する。彼が戦う決意を固めたのは社会正義を貫くためである。

 西宮冷蔵は04年4月には営業再開に漕ぎ着け、倉庫の荷も一時7割ぐらいまで戻ったが、この日舞台あいさつした水谷社長によれば、「冷凍食品の動きが鈍いこともあって、半分ないほどまで減っている」という。

 社会正義のために戦う水谷社長の行動はなかなかできないことでもあるし、評価に値するとも思うが、メディアと連動した形でのあまりに露骨なパフォーマンスには共感できないものを感じたのは否定できない。メディアはある意味で勝手である。自己都合で動いている。利用価値のあるものは利用しても、価値がないとなれば、すぐさまそっぽを向く存在だ。そういう性格の媒体なのだ。

 メディアの力があったからこそ、告発に踏み切ることができたし、それなりの効果も得られたのだろうが、あまりにもメディア頼みが過度になると、逆効果ではないか。映画を観て、また『正義は我にあり 西宮冷蔵・水谷洋一の戦い』(ロシナンテ社編集部編著)を読んでその危うさを感じた。

 経営危機の責任を「霧の彼方で暗躍している巨悪の輩」だけに押し付けるのは納得できないし、経営者の取るべき道ではない。正義を主張するのならば、それに匹敵するだけの経営努力をしてほしい。メディア対応はその後でよいのではないか。

①上映後舞台あいさつする水谷社長、長男甲太郎氏、柴田監督


②今も健在な雪印ブランド(三宮駅前)

 雪印食品は雪印乳業の子会社。事件で子会社はなくなったが、親会社は今も健在だ。人は忘れる存在である。忘れなければ生きられない。

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