『シッコ』

 映画『シッコ』は米国の医療保険制度を告発したマイケル・ムーア監督の話題作。2007年アメリカ映画で、「テロより怖い医療問題」がキャッチコピー。原題は「sicko」。「病人」「狂人」「変人」などを揶揄するスラングらしい。病気を意味する「sick」から来ているのだろうか。

 米国の医療制度にずばり切り込んだドキュメンタリー調の作品だが、こんな映画が米国はもとより、日本でも話題になること自体、世界が置かれている現状を反映していて興味深い。日本の医療制度も大改革の渦中にあるだけに、しっかり考えておかないと、命も救われ兼ねない。

 上映会(神戸国際会議場)を主催したのは兵庫県医師会。主催者の考えは「日本が進もうとしている方向とシッコの世界が似通っている。日本はどうあるべきか、この映画を観てしっかり学んでもらいたい」(西村亮一会長)の言葉に集約されている。

 すべての国民が公的医療保険に加入する国民皆保険制度は米国には存在しない。65歳以上の高齢者と貧困層や身体障害者を救済する制度はあるものの、ほとんどの国民は民間の医療保険に入らなければ、医療を受けられないのが実情だ。

 この民間の医療保険が標準家庭で月10万円程度と高く、会社負担のない零細企業労働者や自営業者の多くは未加入。会社を首になると、保険がなくなる。国民の7分の1に当たる4500万人が無保険者だという。

 シッコに登場してくる人たちはこれら無保険者で、映画に出てくるような悲惨な目に遭っている。被保険者でも診療を受けるためには民間保険会社の審査をパスする必要があり、この基準が高いとされる。治療の選択権を持つのは医師ではなく、保険会社。支払い能力のない患者の診療は拒否される。これが米国の今の姿だ。

 アメリカの医療を一言で言えば、「すべて金次第の格差診療」(県医師会)。日本も小泉政権以降、似たような状況になりつつある、という。海の向こうの話だと対岸の火事視は全くできない。自分でしっかり考えなければ、ものすごい不利益を被る時代だ。

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