『ふたたび』

作品名:『ふたたび Swing me again』
原作・脚本:矢城潤一(宝島文庫)
監督:塩屋俊
配役:祖父・貴島健三郎=財津一郎
    父・貴島良雄=陣内孝則
    孫・貴島大翔=鈴木亮平

貴島健三郎、78歳。
彼は50年の時を経て、友との約束を果たすため、最後の旅に出た。
出会ったばかりの孫(21)と共に―。

 たまたま車を運転中にFM放送で、「ジャズ」「神戸」「SONE」という言葉を断片的に聞いた。しかし、それだけで十分だった。どれも懐かしい言葉ばかりだった。

 神戸はジャズの街だ。三宮の繁華街から六甲山に接した異人館に続く北野坂沿いに何軒もジャズのライブをやる店がある。ジャズ・ウィークなる催しもあって、1枚のチケットで何軒でも覗いて違うプレーヤーのライブを楽しめる趣向だ。

 1970年代後半に学生生活を送った人間にはジャズは身近な存在だった。時代は70年安保闘争で騒然としていたが、ジャズ喫茶店の暗く閉ざされた空間では自我の確認に精出していた。そのための触媒がジャズだったような気がする。下宿から歩いて吉祥寺のファンキーにはよく通った。

 ジャズをテーマにした映画のつもりで何も考えずに時間ぎりぎりに映画館に飛び込んだが、この映画が扱っている題材は重かった。

 貴島健三郎は若い頃、才能のあるジャズトランぺッターだった。仲間4人と「COOL JAZZ QUINTETTE」を組み、1枚のLP盤を残して忽然と姿を消した幻のバンドだった。バンドのピアニストで健三郎の子どもを宿した野田百合子が生んだ子どもが良雄だった。健三郎の孫で21歳の大翔(ヒロト)は自宅に保管されていたそのLPを見つけてファンとなり、大学のジャズサークルでトランペットを吹いていた。

 大翔は父から祖父は亡くなったと聞かされていたが、ある日、実は生きており、自宅に引き取ると言われる。祖父・健三郎はハンセン病を発症し、以後50年以上も島に隔離されていた。その祖父が戻ってくる。物語はそこから始まる。健三郎が島を出る決断をしたのは「人生でやり残したこと」を果たすためだった。

 根底を貫くテーマは重いが、未来志向のジャズロマンでもある。塩屋俊監督はインタビューで「世界には常に虐げられている状況があり、逆境のなかにいる人がいる。それはさまざまなかたちで歴史の中で繰り返されてきました。僕は監督として、そうした状況や人たちのストーリーをエンターテインメントのスタイルで取り上げて、人間の尊厳を謳い、人間の心を描いて、共鳴を呼ぶような作品をつくりたいと考えています」と語っている。

 iTunes Storeから「ふたたび」オリジナル・サウンドトラックを購入し、心に沁み入る旋律をiPod touchで聴きながらこのブログを書いた。いい話だった。

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