『Facebook』

書名:『Facebook 世界を征するソーシャルプラットフォーム』
著者:山脇伸介(在京テレビ局プロデューサー)
出版社:ソフトバンク新書(2011年1月25日初版第1刷発行)

 映画「ソーシャル・ネットワーク」を観てから、フェイスブックのことがずっと気になっていた。その存在はずっと前から知っていたし、米ビジネス系SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のPlaxoには友人の誘いで登録したものの、英語で書き込まなければならないのが億劫で開店休業状態だ。

 日本のGREEにも6年前に一度入るには入ったが、仕事に追いまくられていた時期とダブっていて、とてもそれにのめり込むだけの時間的余裕もなかった。自分のブログをスタートさせた時期とも重なり、まずそれを定着させることが先決でもあった。

 必要性をそれほど感じていなかったこともある。定年が視野に入り、人間関係を含め、そろそろ各種関係の整理を始める時期になったという気持ちも根底にはあり、いまさらコミュニケーションの維持・拡充でもあるまいとも感じた。

 人生の黄昏にはそれにふさわしい生き方がある。死に向かって、ずっと老いていく過程をどういう意思で、どういう姿勢で臨んでいくか。どうせ「死ぬ」にしても、それまでに結構長い、運が良ければ20年ほどの「老い」の期間をすごさなければならない。それがどうも大変だ。

 60歳で会社を辞めても、へたをすれば、それから20年も生き続けなければならないのだ。余命を誰かが教えてくれれば、予定も立て易いものの、いつ死ぬかは天のみぞ知る、だ。分からない以上、最悪のケースを想定して取り組むしかない。

 つまり、最低でも20年は生き続けなければならないことを前提に、毎日を生活していくことだ。今や長生きすることが当人にとって幸せであることでは必ずしもない。本人の希望とはお構いなく、生き続けねばならない可能性のほうが確率的には高い。

 そういう風に考えていくと、「人生の整理」をするのはちょっと早いように思いだしたのだ。定年で一応の会社人としての役割は終え、会社との関係は事実上、切れたも同然だが、社会との関係が切れたわけではない。会社=人生的な生き方をしてきた者としては、会社に”縁切り”され、それだけで気持ちが落ち込むのは否定できない。

 定年で失うのは組織(バック)、仕事、収入、会話(仕事関係の)、肩書き(ステイタス・ポスト)、定期券、不自由(拘束時間)、情報(社内外から入ってくるうんざりするほどの)、それに人脈・ネットワーク(仕事関係の部下・友人)。出世や高収入への希望や家族の好待遇を失う人もいるだろう。

 仕事に専心・没頭・埋没しているときの充実感、高揚感、達成感も当然のことながら、山の遠くに消えてしまう。私は幸運にもまだ働いているが、それもせいぜいあとわずかだ。現役社員との未来志向の付き合いも当然のことながらなくなる。定年サラリーマンなら誰しも襲われる喪失感だ。

 しかし、「定年だからといって、人の持って生まれた素質や性格が変わるわけではない。住む世界、生活する世界が変わるだけ」(HP「平成サラリーマンのセカンドライフ設計」)だ。そういう心境の中で、おのれの気持ちをどう立て直すか。

 随分、前置きが長くなったが、そうしたシニア世代にとって、フェイスブックを代表とするSNSはコミュニケーション・ツールとして極めて有効的ではないか。関係を築くために外に出掛ける必要がない老人向きだし、長く生きてきたことに伴いコンテンツも豊富なはずだ。それを使わない手はない。

 そうでなくても、シニア世代の人的ネットワークは縮小していく。拡大・拡張努力をしても、せいぜいメンテナンスをするのが関の山だろう。いずれ人生の縮小均衡に入るとしても、家族や友人グループなどとの関係は死ぬまで維持したいものだ。

 「これから5年以内に、ほとんどの産業はソーシャル化するだろう」(マーク・ザッカーバーグ、2010年11月17日)。筆者はこの本の冒頭でフェイスブックの創業者の言葉を引用している。筆者は「ソーシャル化」について、「すべての行為に人と人のコミュニケーションがついてくることだと思っている。ソーシャル化した社会では、常に誰かとつながりながら、あらゆる行為が行われるということだ」

 「フェイスブックは人々のさまざまなアクティビティにとって欠かせない存在になっている。それは、誰かの意見や行動を参考にしながら、多くの行為を行うようになっているということだ。そしてその現象を企業は無視することができなくなっている」と指摘する。

 日本人の生活にインターネットが登場したのは1994年。ニフティなどの通信企業が個人会員向けに接続サービスを開始した。今やブロードバンドは当たり前で、ネットのない生活など考えられない。携帯電話もそうだ。しかも、その普及・進化は加速度的だ。

 人間が存在する限り、コミュニケーションやネットワーキングは必要だ。それを支えるツール・プラットフォーム・インフラ(道具・基盤)が変わっただけだ。人は社会や他者と交流・つながり続けていかなければならない。シニアが老後の生き方を考える上でも、社会やビジネス、メディアをまさに変えようとしているSNSを無視できないことを本書は教えてくれる。

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