『日本中枢の崩壊』

書名:『日本中枢の崩壊』
著者:古賀茂明(こが・しげあき)経済産業省大臣官房付
出版社:講談社(2011年5月23日第1刷発行)

 現役官僚による政権批判の書、警世の書だ。氏のことを「霞が関のアルカイーダ」と呼ぶ幹部もいるらしい。霞が関の掟に背いてまで氏を政権批判に駆り立てているものは、「日本は沈没するか否かの瀬戸際にあるという強い危機感」だ。「それは、東日本大震災があったからではない」。

 「世界の変化は年々、加速度を上げ、10年前と比べれば、日本を取り巻く環境は一変している。世界の国々は、凄まじい変化に対応するため、常に変革を繰り返してきた。ところが、日本では、変革は遅々として進まず、閉塞状況に陥っている」

 「たとえてみれば、海外の国々が新幹線で競争しているのに、日本だけが古い蒸気機関車で走っているようなものだ。日本は急激に国際競争力を失い、経済は沈下してしまった。しかし、平成の開国の必要性が叫ばれながらも、いまだに変革のスピードは一向に上がらない」

 古賀氏がこの理由として、「日本の国という列車を牽引している政治、行政のシステムがあまりにも古びていて、世界の変化に対応できない」ことを指摘する。霞が関が省益にとらわれる論理になっており、そうした内向き志向になっていく仕組みこそが問題の本質だと強調する。

 官僚が国民のために働くシステムになっていない。大半の官僚が内向きの論理にとらわれ、外の世界からは目をそむけ、省益誘導に血道を上げている。その答えが昨今の日本の凋落ぶりだと指摘する。

 すべての改革を迅速かつ効果的に推進させるための大前提が、公務員制度改革だと主張する。ところが、この国をリードする「中枢」に危機感が乏しいのだという。時ここに至っても、政治も行政も、弊害ばかりが目立つ老朽化したシステムにしがみつき、目覚めない。危機を感じ取る感性さえない。

 「そのことこそが、この国の最大の危機の正体ではないかと思う。そう、日本中枢のシステムそのものが、もはや崩壊しているのだ。経済も、政治も、行政も・・・」。恐ろしい話だ。

 「日本人には勤労精神が根付いている。放っておいても、夜中まで働く国民性だ。日本人は身を削って働く。教育レベルも高い。なのに、経済がどんどん衰退しているのは、国を動かす仕組みが悪いからだ。1人ひとりの日本人はがんばっているが、政治家と官僚が知恵を出していないので、国民のがんばりが空回りしている」

 元通産官僚で、経済企画庁長官も務めた堺屋太一氏は「官僚を有資格なら出世する『身分』社会から、有能有志の者が適職に就く『職業』に変える」ことをずっと提唱している。

 古賀氏も本書で、「霞が関だけは過去の遺物ともいえる年功序列制と身分保障をいまだに絶対的な規範にしている。悪事を働かない限り、降格もない。実績は関係ないのだから、国民のために働こうという意欲はどんどん失せていく」と指摘し、官僚が省益を考えなくなるシステム「国家公務員制度改革基本法」を提案した。
 

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