『ソフト・パワー』

書名:『ソフト・パワー』-21世紀国際政治を制する見えざる力-
著者:ジョセフ・S・ナイ(ハーバード米大学ケネディスクール教授、クリントン政権で国家情報会議議長、国防次官補)
出版社:日本経済新聞社(2004年9月13日1版1刷)

 

ソフトパワー。電子辞書「英辞郎」を引くと、「(軍事力ではなく)他国の心情的援助・共感などを背景に、他国を味方に付ける(国の)力。アメリカの戦略家Joseph Nyeがhard powerを駆使し過ぎると、soft powerは失われると指摘した」とある。ハードパワーは軍事力や経済力による威嚇などを背景にした力だ。

ソフトパワーも今ではすっかり定着。ナイ教授は昨年7月にはさらにハードパワーとソフトパワーをうまくかみ合わせた『スマート・パワー』(日本経済新聞出版社)を出版した。スマートな考え方は次から次へと考えだされるが、現実の世界を見ていると、ソフトパワーがうまく使われているようにはどうも思われない。誤解されていることもある。

ナイ教授は本書で、「わたしが『ソフト・パワー』の概念をはじめて使ったのは、1990年に刊行された『不滅の大国アメリカ』で、アメリカが衰退しているとする当時の常識を批判したときであった。この本では、アメリカが軍事力と経済力で最強であるだけでなく、ソフト・パワーと名付けた第の側面でも最強の国だと指摘したと述べている。ただ、その後の何年かに、この概念が独り歩きし、誤解・誤用されたり、一部政治指導者に重要性が無視されたりした結果、この概念をもっと掘り下げ、発展させる必要性を覚えたのが本書執筆を促したとしている。

ソフトパワーとは何なのか。ナイ教授は「強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力である。ソフト・パワーは国の文化、政治的な理想、政策の魅力によって生まれる」。本書出版は2004年だからもう8年前。統計がかなり古いものの、今でも変わらないものもある。ナイ教授がアメリカにソフトパワーをもたらし得る源泉として上げているのは次のようなものだ。

●外国からの移住者数が世界でもっとも多く、2位のドイツの6倍に近い。
●映画とテレビ番組の輸出額が世界1で、2位以下を大きく引き離している。
●世界全体で国外の大学に学ぶ留学生160万人のうち、28%がアメリカの大学で学んでおり、2位はイギリスの14%。
●2002年にはアメリカの教育機関に在籍する外国人研究者が8万6000人を上回っている。
●書籍出版点数が世界でもっとも多い。
●インターネット・ホスト数が2位の日本の13倍以上である。
●ノーベル物理学賞、化学賞、経済学賞の受賞者数が1位である。
●専門誌に発表された科学論文数は2位の日本の4倍近い。

ナイ教授は日本のソフトパワーについては以下のものを挙げている。

●特許件数で世界1である。
●GDPに対する研究開発比率で3位である。
●書籍と音楽ソフトの市場規模は2位である。
●インターネット・ホスト数で2位である。
●政府開発援助(ODA)で1位である。←2011年時点では5位
●平均寿命で1位である。

 

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