「ほったらかし温泉」
山梨県に来た以上、「ほったらかし温泉」は外せない。15年ほど前に友人夫婦と一緒に来たことのあるここに立ち寄らないわけにはいかない。
最近の日帰り温泉や天然温泉はジャグジーなど付帯設備にさまざまな趣向を凝らしたものばかりだが、つまりは、人為的な趣向を凝らさなければ、人を引き寄せられないことを物語っている。
「ほったらかし温泉」(山梨市矢坪)と名乗るのはつまり、客を「ほったらかし」にしても、それで客が来なくなる心配がないだけの自信の表れなのだろう。
ほったらかし温泉が持っているのは甲府盆地を見下ろす雄大な眺望だ。山梨県内なら、「みたまの湯」(山梨県八代郡市川三郷町内)も標高370mからの眺望を楽しめるが、こちらの標高は倍の700m。今回も小雨模様で目にできなかったが、昼間でよく晴れていれば、正面に霊峰眺富士を見ることができる。
昔、来たときは「こっちの湯」(1998年営業開始、第1源泉、強アルカリ/PH9.9)しかなかった。脱衣所と露天だけの掘っ立て小屋風の殺風景なところだったが、眺望だけはすばらしかった。よく覚えていないが、富士山は見えなかったと思う。それでも、もう一度来たいとは思っていた。
「あっちの湯」(第2源泉、強アルカリ/PH10.1)は「こっちの湯」の約2倍の大きさ。2002年オープンで、こちらはバラック小屋風。「やや右手に富士、左手に大菩薩嶺、眼下に甲府盆地を見下ろす。日の出を拝する朝風呂、夕景から夜景への眺望の変化なども人気の的」だという。
露天に浸かっているうちに小雨が落ちてきた。しばらく、そのままでいると、今度は雲の一角から光が差し込み、それが七色の虹を作った。4色くらいしか識別できなかったが、さらに外側に薄くもう1つ虹ができた。お風呂に浸かっていた湯客の間で、静かな感動が広がった。なかなかぜいたくな眺めだった。
1時間ほど浸かって上がったら、外はもう暗くなってきた。木造の休憩所の中はストーブが炊かれていて、暖かかった。横になりながら、見上げると、天井に凧が掛かっていた。その文言が面白かった。