中国人による中国人のための『知日』

会見する毛丹青氏

会見する毛丹青氏

 

2011年1月に創刊された雑誌『知日』

2011年1月に創刊された雑誌『知日』

 

テーマ:研究会「中国とどうつきあうか」8
会見者:毛丹青(もう・たんせい)氏  作家/神戸国際大学教授
2014年5月16日@日本記者クラブ

日本と中国の関係は現在、1972年の日中国交回復以降で最悪の状態だ。他国への思慮・配慮を欠いた中国の傍若無人的な姿勢に嫌悪感を抱いている人が日本ではほとんどだろう。

最近になって中国が経済関係に限って日本への歩み寄りを見せ始めていることが日本のメディアで報道されているが、歩み寄ってきたのは中国側の事情によるもので、日本の事情に配慮したものではないのではないか。

中国の顔色ばかりを気にする日本メディアの報道姿勢は情けない。朝日新聞を読んでいると、どこの国の新聞なのか分からなくなってくる。権力監視はジャーナリズムの最も重要な使命だが、監視するのが日本ばかりで、中国政府への監視がおざなりでは片手落ちではないか。

しかし、朝日の取材力がしっかりしているのも確か。特ダネも多いし、事実報道に関してはマスコミの中では一番しっかりしている。朝日の社会主義的論調に共感しているニュースソースが政権や官庁内部にいるということだろう。権力側や新潮・文春などの右派メディアからの攻撃を常に意識しているため、記事のチェックも他紙より行き届いている。

日本のメディア批判はともかく、毛丹青氏の話にはハッとさせられることが多かった。日本側には、中国嫌いの気持ちが先にある。中国については、「反日」姿勢が気にくわなくて、その時点で、中国を知ろうという努力が停止しているのが実態だ。今の中国の姿を直視できていないのは問題だ。

日本人が中国を知る努力を止めているのに対し、中国側からは日本を知ろうとする努力が不断に継続されていることをどう理解したらいいのだろうか。しかも、その努力を続けているのが中国の政治家や経済人などの大人ではなく、普通の若者である。

「中国というコンテンツが日本で消費される場合、圧倒的に多いのは三国志、水滸伝などの歴史上の古典。逆に、中国で消費される日本のコンテンツのほとんどは歴史物ではなく、日本のライフスタイルや推理小説、アニメなどだ。中国の若者は今、日本の若者と同じ空気を吸っている。これに対し、日本のコンテンツからは今の中国で何が起こっているか、中国の今のライフスタイルはどういうものなのかを読み取ることは多分できない」

制服、猫、鉄道、断捨離・・・。中国の若者に、中国人の「虫の眼」で、近距離から、複眼的に捕らえた日本のナマの姿を再生し、伝えているのが毛丹青氏が主筆を務める中国語の文化雑誌『知日』(2011年1月創刊)だ。

日本での滞在が26年と、中国での人生より長くなったという今年52歳の毛丹青氏。雑誌創刊は、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件から間もない時期だ。反日の嵐の中で、「ありのままの日本」を知りたいという知日市場が広がったとの逆張りが当たったという。

反日デモがなければ、『知日』は生まれてこなかった、とも話す。日中関係が一番良かった時期に、『知日』はなかった。おかしなものだが、一面の真理を突いている。

中国の若者は反日に燃えて、デモで日本憎しを叫びながらも、デモから家に帰って、フトンの中では日本の漫画を読んでいる。何でそんなことができるのか。「中国人のタンスには政治、経済、外交などいろんな引き出しがあって、それぞれ別の存在」だと毛氏は説明する。そんなに簡単に切り離すことができるのだろうか。

中国で『知日』が売れることについて、毛氏は「日本文化の強さ」を指摘する。「今の日本文化は、とてつもない拡散力を持っているのではないか」。それに気づいていないのは日本人だけなのかもしれない。

「反日」の逆手を取って、中国人に「知日」を売り込むたくましい商魂。こんな芸当を日本人ができるとは思えない。

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