『明智左馬助の恋』
書名:『明智左馬助の恋』
著者:加藤廣
出版社:日本経済新聞出版社(2007年4月20日第1刷)
織田信長の遺骸を巡る加藤廣氏の3部作の第3作。『信長の棺』、『秀吉の伽』に続く完結編に位置している。
「歴史の大きなうねりに飲み込まれながらも、ある女性への思いを貫いた一途な男、明智左馬助。義父・光秀の腹心でもある彼の純愛を主題に「本能寺の変」のもうひとつの意味を浮き彫りにする」(Amazon.co.jp)
明智光秀に攻められた兵庫県・丹波の出身ということもあり、明智関連の本はつい気になる。信長・秀吉・家康時代の小説では光秀の扱いは主・信長に反旗を翻した謀反人。描き方もぞんざいで、画一的。
学問・教養に優れ、美濃源氏の分かれを称する名門の出であることのプライドがあまりにも強く、それがゆえに朝廷の公家勢力にうまく利用され、謀反に走って行くところは歯がゆいものの、それが光秀の精一杯の生き方だったのかもしれない。
公家に騙された光秀がバカだった。それでも「本能寺の変」という歴史を変える大事件を引き起こした光秀はどんな作品にも登場してくるが、後年光秀の長女・綸と夫婦となった娘婿、左馬助について触れた作品はほとんどない。
この作品は光秀の腹心だった左馬助の目から、「本能寺の変」を引き起こすことになる光秀の心情や考え方を丁寧に追っている。確かに歴史の真実は敗者にあるのかもしれない。