「研究戦略の国際化が必須」
国立情報学研究所(NII)(学術総合センター、千代田区一ツ橋2)のオープンハウスに出掛けた。研究成果を発表し、一般に公開する年に一回の機会だ。「未来価値創成を目指すわが国唯一の総合学術研究所」らしいが、分かったようで分からない。
情報学の分野でいろんな研究をしていることはパネル展示で分かった。ただ内容の理解は自信がない。
豊田工業大学シカゴ校の古井貞熙(ふるい・さだおき)学長の基調講演「AIと自動運転の展望と課題」を聞いた。同校は豊田工業大学(名古屋市)が2003年にシカゴに設立した大学院大学。
■AIの今後の展開
・Google(AI)+人間⇒一種の人間の能力の拡張
・人の能力を凌駕するAIシステムがこれからもどんどん出てくる。
・3.11の原発過酷事故もAIを活用すれば防げたかもしれない。
・人の脳に近いAGI(Artificial General Intelligence)が開発される。
・AIが市場を出し抜き、発明、特許取得で人間の研究者を圧倒し、大衆操作で人間のリーダーを上回ることになるかもしれない。
・人が解決できない難しい国際問題などもAIに任せた方がよくなるかもしれない。
・アメリカでは我々が知らない秘密AIプロジェクトがたくさん走っている。Siri(iPhone内蔵アプリ)も、元々DARPA(米国防総省国防高等研究計画局)の資金を受けているSRI(スタンフォード研究所)のプロジェクトを分離したもので、「Stealth company」だった。
・難しいこと(推論)は簡単で、簡単なこと(知覚や行動)は難しい。
■Singularity(技術的特異点)
・Ray Kurzweil:”The singularity is near:When humans transcend biology”「ポストヒューマン誕生-コンピューターが人類の知性を超えるとき」
➢遺伝学、ナノテクノロジー、AIで社会が大きく変わる。AIが自分で進化するようになり、指数関数的に発展して、2045年にはAIが人類全体の知能を追い抜く。「人工超知能」(Artificial Super-Intelligence)」
・AIと人の知能が結びつくことにより、人類の生活が変容する。
・脳が埋め込みデバイスによって、どこにいてもワイアレスでクラウド・コンピューターと接続できるようになり、新しい知識や技術をダウンロードできるようになる。考えるだけで答えが得られるようになる?(本来の)脳が退化するのではないか?
・AIにできない判断力、創造力を持てるか、AIをどれだけ使いこなせるかがこれからのリーダーの鍵。
■AIは心(意識)を持てるか
・我々の心は物理を基礎にしている。物理的に可能なことはすべてのテクノロジーで実現できる?
・脳のreverse engineeringや simulationにはまだ時間がかかる。意識は能細胞が実行する論理的なアルゴリズムではなく、膨大な量の混沌とした心理作用が新皮質で統合された結果。
・人の主観的な世界について客観的に確認できない→AIの内部世界(意識の所在)も知ることができないかもしれない。
・人間が理解できない人工超知能が出現したら、どうする?世界が征服される恐れはないのか?
■自動運転の定義
・レベル0:ドライバーが常にすべての主制御系統(加速・操舵・制動)の操作を行う。運転支援システム。
・レベル1:加速。操舵・制動の「いずれかをシステムが行う。自動ブレーキなどの安全運転支援システム。
・レベル2:加速・操舵・制動のうち、複数をシステムが行う。ドライバーが常に運転状況を監視操作する。
・レベル3:加速・操舵・制動をすべてシステムが自動的に行い、システムが要請したとき(緊急時やシステムの限界時)はドライバーが対応する。
・レベル4:加速・操舵・制動をすべてシステムが完全自動的に行い、ドライバーは全く関与しない。有人と無人がある。
■自動運転の利点
・運転からの解放。誰でも車で移動できる。
・乗り心地が向上する。
・車が移動するパーソナル空間になる。
・交通事故が減る。
・車間距離短縮により、道路容量が増え、交通流通制御が容易になる。
・最高速度規制が緩和できる。
・カーシェアリングにより、自動車総数が削減できる。
駐車場不足が緩和できる。
・ぴったり寄せられるので、駐車スペースが削減できる。
・自動車保険や交通警察の必要性が減る。
・物理的な道路標識が削減できる。
・車両盗難が減る。
■自動運転者は世の中の仕組みを変える
・車は所有するものではなく、利用するものになる。
・車の生産数が大幅に減るとともに、高級車の需要は減り、関連産業が縮小する(生産・販売・サービスの融合)。
・エネルギー消費が減る(現在の米国ではエネルギーの40%が交通消費)
・ぶつからなければ、車の形や作りも変わってくる。
・ICT(AI)、ハードウエア、エネルギーが競争の3要素になる。
・車の生産コストの半分以上がインフラを含むソフトウエアシステムになる。
・ユーザーインタフェイスも自動車の使い勝手の重要なファクターになる。
・運転免許証が要らなくなる。
・自動運転車は、通信事業者や電力会社から買うことになるかもしれない。
・タクシー運転手は要らなくなる。
・家に車庫が要らなくなる。
・社会システムを構成する規制や官庁、産業構造、都市の設計などに変化をもたらす。
・日本の自動車会社はグーグルに買われてしまうかもしれない。
・日本がこの変化を主導できるかどうかが日本の未来の鍵。
■まとめ
・音声・画像認識技術は、AI研究の牽引車として、深層学習(DNN)の効果により急速に進歩しているが、人の能力に近づくにはまだ研究すべき課題がたくさんある。
・スマートロボット(自動運転も含む)もAIの重要分野の1つ。
・自動運転のために、多様な技術が研究・開発されている。
➢自動運転は世の中野仕組みを変える。
➢自動運転にはまだたくさんの課題がある。
・今後、AIが加速度的に進歩し、生活を変える。データや知識に基づく判断はコンピューターに任せ、人間はAIを使いこなすとともに、AIにできない判断力や創造力を持てることが必要。
・AGIやASIの出現にどう対応・利用するか?
・これからはハードウエアでなく、(情報)システムの戦い。
・わが国が存在感を失わないためには、研究戦略の国際化が必須。
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古井氏のメッセージは、「日本でじっと待っているのではなく、AI先進国の人と一緒に、同じ空気を吸いながら研究に取り組みしかない。人も金も集まるAI先進国・米国で研究するしかない」だ。
研究者だけの話ではない。学者もジャーナリストも同じだ。国際的な成果を得ようと思うのなら、日本という土俵で戦っていても無理だ。世界で勝負するしかない。悲しいが、これが世界の現実だ。
自分の時代は終わった。若い人に期待するしかない。日本国内でも大変なのに、世界で戦っていかなければならない若者はしんどい。英米人に比べてハンディも大きい。しかし、挑戦するのも面白いかもしれない。要はそう思えるかどうかだ。