「調査報道は面白い」

 

ダグ・ハディックスIRE事務局長

 

マット・ゴールドバーグIRE理事長

 

日本に足りないのはシンクタンク、インテリジェンス、それにジャーナリズム。トランプ米政権はエリートからすれば笑止ながら、これら民主主義にとって欠かせない3つを持っている。シンクタンクは経済界が支え、自分とは考えが違っても、経済的に一休みできる場所を提供してくれる。政策を立案し、必要に応じて実務家をまるで回転ドアのように政権に送り出す。

インテリジェンスは「諜報」も意味するものの、要は知性、知能、理解力。単なるインフォメーションは情報にすぎないが、掘り下げた情報こそインテリジェンスだ。米国はバカでも大統領になれる。ブレインがしっかりしているからだ。それを支えているのがインテリジェンス。

ジャーナリズムは民主主義の砦だ。これがなくなったら国は終わりだ。既得権益におもねった既成エスタブリッシュメントは厳しい批判を浴びてはいるものの、真実は必要だ。知識とスキルを備えた記者を育てなければならない。

第20回報道・実務家フォーラム東京セミナーが9月4日、早稲田大学小野記念講堂で開かれた。早大大学院政治学研究科ジャーナリズムコース、取材報道ディスカッショングループ、認定NPO調査報道アイ・アジアの主催だ。

米調査報道記者・編集者協会(Investigative Reporters and Editors Inc.=IRE)は1976年にジャーナリストの有志によって設立された。本部はミズーリ州に置かれている。主要メディア、フリーランス、ブロガー、研究者、学生を問わず、調査報道を志す誰でも参加できる。メンバーは5500人を超え、ジャーナリズムの団体としては全米最大といわれる。2017年6月22-25日にアリゾナ州フェニックスで行われた大会には、1600人が参加し、活発な議論が行われた。

元NHK記者で調査報道を専門とする認定NPO「iAsia(アイ・アジア)」編集長の立岩陽一郎(たていわ・よういちろう)氏は今年のIRE大会について、トランプ政権の誕生でフェイクニュースに関心が集まっていることなどから過去最大の1600人を超えるジャーナリストやメディア研究者が参加。ダグ・ハディックス事務局長に「米国のジャーナリズムのついて明るい展望を持っているのか?」と聞いた。

事務局長は「希望と不安が半々というのが正直なところだ。もっと厳しい状況がくるかもしれない」としながらも、「この大会を見てほしい。これだけの人が参加して、みなつながりを持っている。ジャーナリストは米国憲法に守られた存在だ。ジャーナリストが健全な民主主義に不可欠なことを米国民は理解している。だから、私たちはそれを信じて、さらに前に向かっていかなければならない」と答えた。

日本も状況は変わらないと立岩氏は述べた。

41年前の6月、フェニックスで地元紙アリゾナ・リパブリックの記者が車に仕掛けられた爆弾で爆死した。記者は地方政治とマフィアの癒着を取材していた。この日に情報源に会う予定だった。事件の捜査は進まず、迷宮入りかとも思われた。その時、全米からアリゾナにジャーナリストが集まった。警察も行政も動かない中、一つ一つ証拠を固め、最後に犯人を割り出した。「アリゾナ・プロジェクト」の呼び名でジャーナリストに語り継がれている。

発足したばかりのIREが主導したものだった。

「You can kill journalists,but you cannot kill sotories」(記者は殺せる。しかし、記事は殺せない)

日本は文化の違いもあって米国のような活動は行えない。記者も段々、大部屋方式からブース方式に変わり、個別化してきている。各社が孤立化し、各社の動きがつかめない。そんな記者クラブの在り方も含めて分断されている。

双方向の関係を改めて築く必要がありそうだ。「市民を含めたコラボが必要な時代に来ている」。これは日本だけでなく、世界でも同じだ。ジャーナリストはどの国でも似た匂いを持っている。アミーゴだ。

共同通信編集局特別報道室編集委員の澤康臣氏は主催者の1つ、取材報道ディスカッショングループを主導している人物の一人。同グループは2007年11月に誕生した。

「私たちが目指すのは、ニュースを面白くするための白熱教室。取材と報道にあたっての実務的な課題、問題点を現実に即して提示し、具体的な解決への手掛かりを見つけていこうと思っている」(澤氏)。現場で悩む本人の言葉にはうなずくものが多かった。

 

フォーラムが終わったら、外はもう暗かった

 

フォーラム終了は18時30分。外に出たら暗かった。小野記念講堂は前の学生会館のあった場所。大学の周辺も様変わりしていた。

 

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