山持ちが割りを食う

 

岐阜大学の川﨑晴久名誉教授(左)

 

次世代の林業機械、森林管理システムを考えるNPO法人農都会議の「林業技術の革新」に関する勉強会が開かれ、枝打ちロボットの研究開発に従事している岐阜大学工学部の川﨑晴久名誉教授と航測レーザー計測技術による林業支援を行うアジア航測の矢部三雄社会システム開発センター総括技師長が語った。

▇川﨑晴久岐阜大名誉教授(工学部機械工学科)

・林業経営は長期的な林業採算性が悪化し、人材の価格が非常に低下している。森林所有者は経営意欲を低下させている。

・林業の作業現場は高齢化率(65歳以上)が21%と高い。全国産業平均に比べると、2倍以上だ。最近若い人も入っているものの、全体としては高い。労働災害発生率は1000人に対し28.7人と製造業・全産業の5~6%に比べダントツに高い。林業は「危険な産業」という実態を表している。

・森林の管理の放棄が始まっている。平成23年の立木伐採面積7.4万ha、植林面積2.4万ha。この差5万haは切った後何もしていないことに近い状態。伐採すれど、植林もしない「ほったらかし」の森林が5万haとなっている。伐採は進んでいるものの、植林面積を増やす林業家の意欲が衰えているのでこの差が累積していく。日本の至るところが切り取った状態の山になる。

・森林管理の放棄の結果、災害防止機能、水源の元を作る機能、環境保全とか、生物多様性機能といった多面的機能が低下する。「医療の砂漠」と言う言葉があるようだが、山がそういう状態になっていく。

・人工林としてやってきたところはどんどんそういった状態になりつつあるのではないかと危惧している。

・林業経営が持続的になる仕組みを考えていかないと難しい。生産性の向上、労働効果の低減、安全性の改善、林業副産物の活用(バイオマス産業)といった課題を解決していく必要がある。

・植林した木を刈れるのは何年先か。次に刈れるのは早くて40年後。50 年、60年、100年。自分が植えた木は自分の子どもじゃなくて、孫の代に切る。そういう長期ビジョンが見渡せるような施策が背景にないと木を植えて次に行きますという手が上がってこない。100年長期ビジョンでの研究開発、経営支援が要る。

・森林で育林作業を支援するロボット技術が大きな課題。ロボットの開発について国は大きな旗を振っていない。日本中ロボットの研究をやっている大学はいっぱいあるし、研究者もたくさんいる。森林分野のロボットを研究している人・グループは3つぐらいしかない。産業用、民生用、医療用ばかり。あまりにも少なすぎる。国が誘導していない。林業労働者も声を上げない。何を研究していいのか分からない。育林にとらわれずにこういうロボットの開発が重要だと思っている。

・ロボットの研究者+国の機関+現場の人の3者が意見交換する場を作られるべきだ。

・森林管理システムがなかなか確立されていない。日本の山は資源を生まない山とするのか資源を生む山とするのか。基本的な政策をしっかり持たないと、「植えて育てて」というところに行かない。行くような仕組みが必要だ。

・森のサイクル:植栽→雑草刈り(下刈り)→真っ直ぐにするために密に育てる→太くするために間引く→枝打ちする→間伐→主伐 最低で40年、へたすると100年。そういう流れの投資ができるような仕組みがないとなかなか林業家が手を出せなくなってくる。そうならないように育成支援ロボティクスが課題だ。

・森のサイクルは造材→搬出→運搬→利用という別の流れもある。高性能林業機械を導入して積極的にやっていると考えている。多くは海外製の製品を少しモデルチェンジしたタイプのものを導入することに近い。

・循環してロボット化してやる部分はロボット化は皆無だ。間伐の場合、木に登ってまず落ちて死ぬ。いくら熟練でもその日の木や人間の状態による。非常に危険な作業だ。枝打ちの出来る人が少ない。育林事業者は枝打ちをしなくなる。枝打ちをしないで集成材のようにして使う発想だ。したくてもできないという発想。

・枝打ちをしたい人ができるような仕組みを作っていく。枝打ちのためには①無節な良質な木材生産(柱を直に見せることがなくて、なかに節があろうが、なかろうが構わない)②木材の輸出強化③食害防止④森林の環境保全⑤水資源の保全-が必要。

・このためにはインテリジェント枝打ちロボットが必要だ。18kg以下が目標。昔は30kgだった。2人必要だったが、1人でもできるようにしたい。

・作業していると同時に森林管理の状況が蓄積される。GPSとIOTを利用して森林管理・作業管理に向けた通信システム技術が必要だ。ロボットが作業したときに、作業しているときの状況、枝の数、太さなどが分かる。これを通信機能を使って送ると、同時に森林管理の状況も蓄積される。IOT通信機能を持ったインテリジェント枝打ちロボットシステムの開発が重要だ。

・昔作られた枝打ちロボットはあるものの、日本では販売中止になっている。大学等で研究開発された例はあるものの、実用化されたものはない。

・事業化計画については「レオニックス」が担当する。

 

アジア航測の矢部三雄総括技師長

 

▇矢部三雄アジア航測国土保全コンサルタント事業部総括技師長

・航空機(セスナ機6機)から地上をセンサーで測って地図を作成する会社。平成22年(2010年)からそうした技術を森林に応用。航空レーザー計測技術を用いて広範囲の森林をハイスピードに計測している。

アジア計測(東京都新宿区西新宿)東日本は東京都調布飛行場(東京都三鷹市)、西日本は国管理の八尾空港(大阪府)を基地にしている。自らの会社で航空機を自主運用して撮影するのはアジア航測だけ。

1994年(平成6年)と2016年(平成28年)における木材価格の比較

 

・木のボリュームから丸太のボリュームを引いたのが「歩留まり」と呼ぶ。丸太にする場合は立木からの75%ぐらいまで落ちる。丸太の量から製材品にする場合は良くて6割まで落ちる。いろんなセミナーで幹部は無視した説明をしているので要注意。

・立木の価格が落ちている。3720円⇒840円。1本からとれる製材品価格は8480円⇒7830円。そんなに落ちていない。製材品は国際価格ですからあんまり変わらない。

・「山には木がたくさんあるのになぜ出てこないのか」に対する1つの答えがこれだ。山で木を育てる段階と、山から切って丸太を工場に持って行く段階、丸太を製材品に加工する段階を3つに分けて、それぞれの取り分がどう変化してきたか。

・今日本の加工場で何が起こっているかというと、丸太を安く買えるのですごく儲かっている。ウハウハだ。中小の製材工場が同じ土俵で生きているので、その人たちが生きている土俵で丸太が流通する。大規模な効率の良い製材工場はその分全部儲けになる。そういう構造だ。

・山に全部しわ寄せが行っている。森林所有者はいくらで木を作ったか、60年前から育てているので、資金が必要なときに木を売却する。経営意欲は低下している。ここをぶちこわすのが私のテーマだ。なぜぶちこわすのか。森林所有者に自分の森林の価値を理解してもらうため。これが一番手っ取り早い。

・航空レーザー計測とは、航空機に搭載したレーザー測距装置を使用して地表を水平方向の座標(x、y)、高さ(z)の三次元で計測する方法。レーザーを照射する機械であり、地上から跳ね返ってくるレーザーを受け取る機械。1秒間に20万発から40万発発射する。捕捉するまでの時間を正確に測ると、撃ったところから当たったとこまでの距離が正確に分かる。航空機の位置も正確に分かる。

・昔は人間が写真を推測して見て等高線図(コンタ図=contour map)を作っていた。見えないところは見えない。航空レーザー計測だと火口列が発見された。地図を作る上で革新的な技術と評価されている。

・木の種類によって反射強度に変化がある。その特徴を活かして樹種も特定できるようになった。レーザー計測結果を色分けすると誰でも分かるようになった。樹頂点(木のてっぺん)も特定できる。しかし、太さは分からない。それがレーダー計測の結果、1本1本の枝葉の広がりを特定することができた。本数、樹高、太さも分かった。

・「あなたの山はこれだけ面積があって、丸太にしたらこれだけ出てくる。今の価格ならこのくらいになるはずなので、素材生産業者のいいなりになって売ったらだめですよ」と言った情報を森林所有者に提供している。

・日本は外材が安くて負けたというが、これは昔の話。今は日本のスギのほうがずっと安い。なぜかというと、製材工場が買いたたいて安くしているから。パルプも海外から入ってくるチップのほうが高い。

・道を作る場合もどこに道を作れば効率的かも把握できている。路肩クラックの把握も容易。

・若い人は市販スマホの中にデータを全部入れて山に行く。山に行くと、どこにいて、どんな木があってなどすべて分かる。これが最近受けている。ちょっと年配者は「赤色立体地図」を紙に印刷して山に行く。コンタ図は道に迷うが、これだと道に迷わない。

・伐採するときにそのデータを使えないか。ハーベスタヘッド。ICT林業、スマート林業。

・境界明確化のためのツール。飛行機飛ばして、計測して、解析までして、こんな位の丸太が出ると分かる。ha当たり3500円。ところが1000haやったら350万円。営業に行ったらそこで終わり。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.