「米側から不公平感が示されること」が日米安保条約の最大の弱点と河野前統合幕僚長(上)

 

登壇した河野前統合幕僚長

河野克俊前統合幕僚長

 

ゲスト:河野克俊(かわの・かつとし)前統合幕僚長
テーマ:安保改定60年・その功罪と今後
2020年1月24日@日本記者クラブ

 

河野克俊・前統合幕僚長が登壇し、安保が果たしてきた役割や今日の世界における日米同盟の意義について語った。シリーズ企画2回目で、初回は防衛大学校長も務めた五百旗頭真(いおきべ・まこと)・兵庫県立大学理事長だった。河野氏は1977年に海上自衛隊に入隊し、自衛艦隊司令官、海上幕僚長などを経て2014年から19年まで統合幕僚長を務めている。

日米安全保障条約は日本の安全保障にため、米軍を日本国内に駐留させることを定めた二国間条約で、1960年1月19日に現行条約に改定された。2020年1月19日は改定60周年。

河野氏は「日米安全保障条約は日米安保に大きく貢献し、条約を締結したことの選択は正しかった」と述べた上、「もし弱点があるかと聞かれたら」として、「何かあれば、米側から不公平感が示されることが弱点であり、ここを是正することが必要だ」との認識を示した。

同氏は「日米同盟関係にすきま風が吹いているとみられるのは『同盟の抑止力』の観点から好ましくなく、これが同盟の最大の弱点であり、ここを是正することが必要だ」としている。

トランプ米大統領は昨年6月、大阪で開かれた20カ国・地域首脳会合(G20)の記者会見で、「もし日本が攻撃されたら、われわれは全軍で日本のために戦うが、米国が攻撃された場合、日本は闘う必要がない。これは不公平だ」(産経デジタル、2019年8月22日)と述べた。

サミット直前にもトランプ大統領は米メディアで、「もし日本が攻撃されれば、われわれは第三次世界大戦を戦うことになり、あらゆる犠牲を払って日本を守る。だが、もし、米国が攻撃されても日本はわれわれを助ける必要は全くない。彼らはソニー製のテレビでそれを見ていられる」(同)と不満をブチまけたと報じられている。

日米同盟は信頼性があるから抑止力として機能するわけで、米側トップのトランプ大統領がこうした「不公平発言」を行えば、他国は日米同盟にはどうも不公平感が漂っているようだと受け取るのが普通だ。他国が日米関係にすきま風が吹いているとみると、日米同盟は弱体化しつつあり、他国からはそんなに気にする同盟ではないと受け取られかねない。信頼性を失った日米同盟は暖簾に腕押し的存在でしかない。

同じ記事によると、安倍晋三首相は昨年8月9日、長崎市で記者会見し、「日米安保条約で、日米双方の義務のバランスはとれていると考えている」「日本の負担割合は74.5%で、韓国やドイツ、英国などと比べてもはるかに多く、米政府関係者は高く評価している」「負担協定は2021年3月末まで有効であり、新たな交渉はまだ始まっていない」などと述べたが、日本のさらなる負担比率引き上げを狙うトランプ氏との見解の差は大きい。日米安保をめぐる日米双方の認識はすれ違っている。

 

安保条約5条と6条の抜粋

安保条約第5条と第6条の抜粋(1月27日BSフジLIVEプライムニュース)

 

日米安保条約の中核は第5条「米軍兵士は日本のために血を流す」と第6条「米軍はそのために日本の施設や領土を使用できる(そのためのお金も日本がほぼ払う)」で構成されている。人の命とお金は同列にはできないが、日本政府の公式説明では片務的な第5条を第6条でバランスをとっているということになる。だからトランプ大統領の「不公平だ」という指摘は当たっていないというのが日本側の公式見解だ。

日本は1951年、主権を回復し独立国家として生きていきたいと望んだが、既に米ソ冷戦時代に入っており、日本からの撤退は無理だと判断し米軍撤退は時期尚早と拒絶した。そこで吉田茂元首相は経済復興を優先させる決断を下し、日本側が駐留を要請するという形を取ることで米軍駐留を認めた。これが河野氏の説明だ。

自衛隊はまだ影も形もなく、日本は無力国家。防衛については米国に全面依存するしかない。米国の極東戦略に必要な基地は日本が提供する。戦勝国と敗戦国の関係からスタートした同盟だった。5条と6条でバランスをとっていることもそう言えた。

しかし、それから60年。自衛隊も発足し、多少の矛盾は孕みながらも対等なはずの同盟だったが、日本は弾道ミサイル攻撃に対応できる防衛体制(弾道ミサイル防衛=Ballistic Missile Defense=BMD)の整備を進めている。パトリオット・ミサイル(地対空誘導弾)の配備や陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)2基の導入などだ。

河野氏はしっかりしたBMD防衛を整備しているのは世界で米国と日本くらいだし、最新鋭ステルス戦闘機F35の三沢基地配備開始など「日本は世界からみても第一線の防衛力を持つに至っている」と述べた。

60年前に影も形もなかった自衛隊が存在し、日本の国家意思さえあれば、やろうと思えばいろんなことができる。安保条約を取り巻く環境が全く変わったにもかかわらず、骨格は全く変わっていない。ここは考える必要があると河野氏は述べた。

 

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