「東京パラリンピック大会」に参加する人材を残すことこそ最大のレガシー

 

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パラリンピック統括室長の中南久志氏

 

ゲスト:中南久志(なかみなみ・ひさし)
(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
パラリンピック・ゲームズ・オフィサー
パラリンピック統括室長
テーマ:オリンピック・パラリンピックと社会
2020年2月21日@日本記者クラブ

 

・2020東京パラリンピックの開催準備状況についてスタッフ側の視点から話をしたい。オリンピックと比較して見るのが一番。選手数は4400人で五輪の1万1000人の半分以下。競技数は3分の2で22競技(五輪は33競技)だが、種目数は539と多い。障害の度合いが違うために100mでも1つではなく、5つも6つも種目がある。職員数は2月時点で3000人強、大会時には8000人弱になる見込み。これに大会ボランティア(会場のセキュリティーや車両運転手など)と都市ボランティア(うち東京都は3万人)を足した11万人以上が加わる。

・パラリンピックの選手数を4400人と言ったが、これだけの障害者が一堂に集まるのは日本では初めてではないか。1964年時には300名超。4400人を受け入れることは非常に大変だった。

・「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン」(大会運営用に作った指針)を持っており、これを基に大会の準備をしている。日本のバリアフリー法などは先進国に比べて進んでいるものの、1つ欠けているのは障害者がグループで移動する、宿泊すること。これらが想定されていない。この結果、エレベーターの運用などに問題が出てきた。ガイドラインはお願いベースで対応するしかなく、いろんなところを回って頭を下げている。

・国際パラリンピック委員会(IPC、本部ドイツ・ボン)は世界最高峰の障害者スポーツ大会ではあるが、開催都市に「共生社会」を定着させることを目指してもいる。障害があるなしにかかわらず、アクセスできることは基本的人権であると明記されている。これは哲学である。

・障害のある人も行きたいところにいける権利、言いたいことを言える権利が基本的人権に含まれるとは日本の法体系では理解されていない。IPCは共生社会を定着させることでレガシーを残そうとしている。

・日本の社会では「先着順」のルールが徹底しており、後ろに並んだ車椅子の人たちに譲ろうという人も出てこない。これを見たIPCの人が「車椅子の人が待っているのは世界からすればおかしいことだ」「これしか使えない移動手段であれば、これしか使えない人が優先させるべきで、前から並んでいる人を優先させるべきなのは日本の独自のルールだ」と指摘した。

・「多機能トイレ」は東京都条例で「誰でもトイレ」の名前を付けたので障害の有無にかかわらず誰でも使える。ここしか使えない人が待つことになる。分散配置のトイレが増えている。

・エレベーターは11人乗りが普通だが、IPCの推奨は24人乗り。2基目を増設して全体の容量で基準を満たすように努めている。

・ハードだけでは社会は変わらない。鉄道事業者やホテル業界、ボランティアなどを含めいろんな方々の協力が必要だ。パラリンピックをきっかけに、あるいは準備に少し関わってきたことを次回以降活用してもらいたい。

・大会に関わってくれた人の気持ちがどう変わるか。マインドチェンジができないと、急には変われませんよという回答しか出てこない。障害者団体も関わって自分たちの情報発信に努めている。子どもたちが学校で障害者対策を勉強し始めている。

・障害者スポーツを取り巻く環境の変化はものすごい。テレビのCMでパラのアスリートを見ない日がなくなった。ロンドン以前は企業が障害者のアスリートをCMに使うのは障害者を見世物にするのかという批判を受けていて、どの企業もちょっと踏み出せなかった。それがロンドン以降、企業のCM使用が始まり、チャレンジが進展し、普通に見るようになってきた。これが一番大きい変化ではないか。

・パラリンピック観戦チケットには約24万人、237万枚(第1次、第2次希望の合計)の申し込み希望があった。これはロンドンを上回るペースだ。しかし、申し込みをいただく競技が集中しており、一部売れ残る状況も発生している。比較的これまで見たことのある競技は人気が高い。

・(報道面の変化は?)ロンドン以前は社会面、文化面の記事が多かったが、ロンドン以降はスポーツ記事として書かれて、最近はサッカーや野球などと同じスポーツ面に載っている。スポーツ新聞が取り上げることもそんなになかったが、これも大きな違いだ。

・(ロンドン大会の学びは?)278万枚のチケットが売れたことは当時の障害者スポーツにとっては衝撃的だ。「パラリンピックは楽しいぞ」「感動するよ」「盛り上がれるぞ」ということを学んだことが最も大きい。東京大会で何が残せるのか。試合を見たり、選手として参加したり、ボランティアとして参加したり、空港で案内したりする人々が大会終了後も残ること。開催国・開催都市の最大のレガシーは人材だ。こんなに記者が集まることもなかった。

・(感染症対策は?)アスリートの中には心肺機能が弱い人もいるので、気を遣う必要がある。全体的な衛生管理を進めていきたい。

・クラス分けが付きまとうし、これがパラリンピックを見る場合の難しさにもつながっている。どういう部位に障害があるのか試合の紹介に工夫をしたい。

・昔は「障害者は1人じゃ出歩かないでしょ」と怒られていたが、まだまだ改善の余地あるものの、最近では同伴者なしでタクシーなどに乗ることが前提になってきた。パラの期間中だけではなく、その後も変わらないと社会全体が変わったことにはならない。

・(パラリンピック・ゲームズ・オフィサーとは?)パラリンピックはオリンピックと共通のスタッフが準備をすることになっており、オリンピックだけのゲームズ・オフィサーはいない。パラは固有の問題があり、そのままではスムーズにいかない課題が出てくる。問題が起こると相談があって調整を行う役のことだ。

・(揮毫『パラリンピックのその先』と書いた理由のコメント)1回こっきりではなく、先に何を残すかを考えることが重要。これが社会に変化を生むきっかけになる。

中南氏は1990年に東京ガスに入社、2011年に鳥原光憲会長(この年から日本パラリンピック委員会委員長、現・同委員会会長)の秘書を務めた後、14年に組織委員会パラリンピック担当部長として出向し、17年にパラリンピック統括室長に就任。今年1月からパラリンピック大会の運営を強化するために新設されたパラリンピック・ゲームズ・オフィサーを兼務している。

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