「例外主義」を初めて放棄し「不介入主義」を打ち出したトランプ米大統領＝三牧聖子高崎経済大学准教授

 

 

ゲスト：三牧聖子（みまき・せいこ）高崎経済大学准教授
テーマ：米大統領選の行方④
2020年7月31日＠日本記者クラブ

 

■アメリカは「普通の国」

 

やっぱり記者会見は現場がいい。ズームなどのオンライン方式は自宅でカバーできるから悪くはないものの、いかん集中できないのが最大の欠陥だ。オンラインとともに、ゲストを会場に迎えて会見が行われた。会場にゲストを迎えた会見参加は2月23日（日）の映画「パラサイト」のアカデミー賞受賞監督以来だった。

高崎経済大学准教授の三牧聖子氏が「アメリカ例外主義のおわり？」と題して、大統領選の行方について語った。

・米外交の例外主義とは「米国は特殊だ」という『特殊性』だけではなく、「米国は優れている」との『優越性』（物質的、道義的）も含んでいる考え方だ。他の国とは違って特別な他の「使命」を担っている。

・しかしトランプ大統領は「例外主義」を政策のみならず、レトリックの次元でも放棄した初めての大統領と位置づけられる。ここ100年ぐらいの歴史ではそうだ。

・「何十年も前から私たちは、アメリカの産業を犠牲にして外国の産業を豊かにしてきた。この国の軍隊が悲しくも消耗していくのを許しながら、外国の軍隊を援助してきた。自分たちの国境防衛を拒否しつつも、外国の国境を守ってきた。そしてアメリカのインフラが荒廃し衰退する一方で、海外では何兆も何兆もの金を使ってきた。我々は、この国の富と力と自信が地平線の向こうで衰退していく間に、よその国々を金持ちにしてきた。しかしそれは過去のことでる。今日から今後は、ただひたすら『アメリカ第一』『アメリカ第一』です」（2017年1月20日就任演説ー「普通の国」へー）

・レーガン主義の前提は米国は豊かで恩恵的で世界各国に利益を与える存在だったが、それとは全く対照的。米国は世界から「搾取」されてきたとの犠牲者の位置づけ。人が良すぎて取られてきた米国。これは過去のことにしてこれからは米国のことを考えよう。

・他の国と同様に米国の国益、国民のことを考える。国内を見ればボロボロで普通の国になりたいと宣言したとも言える。

・ウッドロー・ウィルソン第28代大統領（1913～21）。第1次世界大戦に参戦し国際連盟の創設に貢献した人物。「世界は民主主義にとって安全にされねばならない。・・我々はいかなる利己的な目的も持たない。制服も支配も望まない。・・我々は人類の擁護者なのだ」（1917年4月2日）

 

■不介入主義は新たなコンセンサス？

 

・各種世論調査で米国は「アメリカは世界の警察となるべきではない」「他国のことより国内問題、特に雇用の問題に取り組むべき」「同盟国に安全保障のコストをもっと負担させるべき」といった見解は党派を超えた支持を集めている。

・トランプ個人、その国内政策をめぐっては賛否両論あるが、「アメリカの国際的な役割をより穏当なレベルに引き下げるべきだ」との外交の不介入主義についてコンセンサスが形成されつつある。

・より国際協調的な外交を支える「世代交代」もあるのではないか。第2次世界大戦を経験した「偉大な世代」の政治からの本格的な退場とこれから米国社会の中心となるミレニアル世代はアフガン・イラク介入で疲れ切り、「世界の警察」に本能的な拒絶感を抱いている。

・Z世代（ゼネレーション世代、1997年以降に誕生）はミレニアル世代の次に生まれた世代。この世代は人種・民族的に米国の歴史上で最も多様化した世代。人口の5分の1を占める。多様性は当たり前。変革にも希望。銃規制や気候変動対策を支持し、社会運動にも積極的に関与している。

・米国は長期的に衰退局面にあるというリアルな認識を持ち、そうである以上、米国は他国と協調し、敵をなるべく作らずに国益を追求すべきだと考える。

・UN Foundationなどの調査では「国連への関与は米国の国益にかなう」と考える人の割合は、民主党・共和党支持者ともに過半数を超える。

・米国のとって極めて異端な考え方と言われてきた「社会主義」について、2019年5月Gallup調査では43％の米国民が社会主義をよいものと回答している。（1942年には25％）

・トランプ政権は「社会主義」への攻撃を強めてきている。

・「米国内で最近、社会主義の兆しが見え始めている。米国は支配や統制ではなく、自由と独立が礎となって建国された国だ。われわれは生まれながらにして自由であり、自由であり続ける。今日、アメリカは社会主義国には決してならないという決意を新たにする」（2019年2月5日一般教書演説）