観光客も常時きめ細かな「おもてなし」を求めるのではなくコロナと共存する時代がやってきた=高坂晶子氏

 

高坂晶子氏

 

ゲスト:高坂晶子(こうさか・あきこ)日本総合研究所調査部主任研究員
テーマ:With/Afterコロナにおける観光振興
2020年9月17日@日本記者クラブ

 

地方創生、観光政策に精通する日本総合研究所の高坂晶子主任研究員が、コロナ禍が地域経済、観光産業に与えた影響、「ウィズコロナ」「アフターコロナ」において必要となる政策について話した。

観光ビジネスは新型コロナの発生でグローバルな人の移動・交流が概ねストップした。4月半ばには史上初めて世界のすべての国・地域が他国との移動を規制した。9月11日時点で日本が入国を規制する国・地域は151カ国、日本からの渡航者に対して入国・行動規制を課す国は117カ国に上った。

・観光ビジネスは機能停止に陥っている。4~7月の訪日外国人旅行者数は連続して前年同期比▲99.9%、お盆の予約状況・国内航空線は4割、新幹線は8割以上のマイナス。需要が蒸発している。

・国連世界観光機構(UNWTO)の試算によると、2020年の海外旅行者数は最悪▲78%、損失額は1.2超ドルに達する。さらに雇用は1億人から1.2億人失われる見通し。9月11日時点でコロナ関連倒産企業のうち1位は飲食業だが、2位は宿泊業の54件(10%)。5月のデパートの免税総売上高は▲97.5%、6月以降も首都圏中心に低迷している。

移動自粛期間中に事業者は何をしていたのか。1つは客との接点を保とうとしていたほか、安全安心対策に取り組んでいた。景勝地・美術館等のバーチャルツアー配信や仮想現実、インタラクティブ通信などの新技術の導入など。ガイドライン作成や衛生基準の一新、順守すべき項目のリストアップなど。

観光再開の動きも徐々に出てきている。国内の動きについては各種アンケート結果が公表されているが、母集団により結果にばらつきが見られる。一般消費者の反応は「旅行はしたいがまだ怖い。当面は自家用車で自分の住んでいる自治体の中か近隣を旅行するのがせいぜいで、海外旅行は早くて来春以降」が平均的な答えだ。

・UNWTOはリスタート・ガイドラインを公表(6月3日)、再始動を宣言(6月12日)。ヨーロッパは早期再開に積極的で、EU委員会が再開ガイドラインを公表(5月13日)、ギリシャ、スペインは一部リゾートでEU客の試行的な受け入れを開始(6月15日)。アジアは今まで我慢していたので旅行したいという「リベンジ消費」が高まっている。

・関係の深い近隣国間で検査・隔離を省略して往来を活発化する「トラベル・バブル」といった先駆的な取り組みも行われている。バルト3国で実施されているほか、豪州とニュージーランド間は調整中。ヨーロッパでは流行再発に対して規制を再強化したが、頻繁に規制を発動せず、「コロナ下の観光」を目指すべきだとの意見も見られる。

当面の観光振興策。日本政府としてGo to キャンペーンを7月22日からスタートした。2020年度第1次補正予算の7%が割り当てられた。総額1兆6794億円。

・実施上の問題点も多い。受益層にばらつきがある。登録する必要があるが、登録宿泊施設は全体の5割以下(8月22日)。割引原資の配分は前年実績に準拠することになっており、どうしても大手代理店中心にならざるを得なかった。手続きの煩雑さや東京都民、旅行困難なエッセンシャルワーカーは現状受益できないなど利用機会についてもばらつきがある。

・観光マインドの盛り上がりも欠いている。来訪する側も「こんな時に観光していいのか。後ろめたさ、やましさみたいなものを感じる。実家に帰省して嫌がらせを受けることへの懸念も強い」ほか、受け入れ側も都市圏からの人の流入が感染拡大の引き金になるのではないかと忌避感が出ている。政府の急激な需要喚起方針と国民との間に温度差があり、利用実績の低迷につながっている。

Go to キャンペーンの効果はどうか。旅行需要は戻るのか。感染症は目に見えないリスクがあり旅行マインドが盛り上がらない理由になっている。需要喚起もやり過ぎるとクラスターが発生、観光全般に甚大なダメージが生じる。

・(政府はGo toキャンペーンで1300万人が利用し効果があったと言っているが?)去年8月の日本人の延べ宿泊者数は5400万人に比べると1300万人はかなり少ない。少なくても元に戻っている状態ではないのは確か。宿泊客がいなくなった宿泊施設にキャッシュフローが生じたということで下支え効果があったのは確か。ただ予約が増えたところもあれば、そうでないところもある。まだまだ効果は一部だろう。

・政府は新しい生活様式の下での「新しい旅のかたち」をアピールしているが、果たしてそれがどういうものか具体的に見えない。「2030年にインバウンド6000人」(観光白書、観光ビジョン実現2020)と数重視の政府目標は不変だ。

・海外の取り組みとしては危機を構造改革に向けた好機に転じる姿勢が読み取れる。政府が航空会社を支援する時にSDGsへの配慮を義務づけるなどのサステナブル・ツーリズムやレスポンシブル・ツーリズムへの関心が高まっている。

・新常態下の観光とは。安全安心の確保や三密(対密集、対密閉、対密接)の回避だ。原則対面で親身なサービスが日本の観光のセールスポイントだったが、リモート対応だとかチャットボットなどの問い合わせ対応、キャシュレスでの決済対応などに舵を切る必要がある。

求められる視点と今後の課題。「新しい旅のかたち」を具体化していくのが必要だ。常時きめ細かい「おもてなし」は困難だが、観光客としてはそれをサービスの低下と受け止めないことが必要ではないか。リモート対応はニューノーマルの必須条件として積極的に評価するスタンスが重要だ。

 

 

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