【円安】止まらない円安とこれからが本番の物価高を迎える日本経済の抱え込む財政破綻リスク

 

円安はどこまで進むのか・・(7月19日報道1930)

 

BS-TBSは7月19日(火)、『報道1930』で、「”日本は夜逃げできない”借金大国を襲う危機」を放送した。ゲストは早川英男・元日銀理事、小幡績・慶応義塾大学准教授、加谷珪一・経済評論家。メインキャスターは松原耕二元TBS報道局記者。

 

■円は1ドル=150円が山場

 

・松原=円は今年1月の113円台から3月ごろから円安が進行し、先週14日には1ドル=139円台を付けた。これは24年ぶりの円安水準である。

・これについて米ゴールドマンサックスアセットマネジメント元会長のジム・オニール氏はブルームバーグに対して「円が150円まで下げた場合、1997年のアジア金融危機並みの混乱を引き起こす恐れがある」と語った。

・早川氏=私は139円まできており、これ以上の大幅な円安はないのではないかと思っている。139円だけでもとんでもない円安だ。円ドルの長期的実力(購買力平価)は90円ぐらいといわれているからだ。今月末に今年4~6月の米GDP成長率が出るが、場合によっては2四半期連続のマイナスになる可能性がある。米はリセッションに入ったと考えられ、円相場がどんどん安くなる状況ではない。

・小幡績・慶応大学准教授=私も早川さんと同じですね。150円が山場だが、150円は突破しないと思いますね。為替水準に意味はない。同じものは同じ値段だねという購買力平価で90円くらい。今は金利差で決まるといわれるが、金融市場の問題。はっきり言うと為替水準は雰囲気とノリで決まる。専門用語でいうとモーメンタム。日銀は動かない、弱腰だ、何やっても日銀は動かない。ヘッジファンドが調子に乗って攻めてきている。負けようがないから。勢いできているから異常事態で、いろんなところにしわ寄せがきている。何かきっかけがあれば大きく戻す。

・加谷・経済評論家=円安が3月に始まった時点から150円くらいはあり得ると言っていて今も基本的な認識は変わらない。購買力平価の水準から言えば著しく乖離している。マーケットはオーバーシュートしてしまう性質を持っているので加速するときは加速する。

・150円は日本と中国の生産コストが完全に逆転する水準に入ってくる。日本で作ったほうが安くなる。この辺りが目安になるのではないか。明確にここという決め打ちできる水準はないのでなかなか難しい。

 

資産運用会社による円の売買(7月19日報道1930)

 

■「日銀は必ず負ける」とヘッジファンドのトップ

 

・松原氏=ヘッジファンドが円売りに入ってきている。6月8~14日までの1週間が過去最高の7万4327枚(1枚=1250億円相当=9290兆円)分売りが上回っている。

・スイスのヘッジファンドEDLキャピタルのエドゥアール・ドラングラード氏=105円から円を売っている。150円くらいまではいくんじゃないかと見ている。今のような世界的なインフラが起こることを予想していた。

・日本の投資家も円を売ってドルを買う環境になると予想していた。日銀が「イールドカーブコントロール」という長期金利を0%近くに抑え込む政策に固執しているからだ。そこにもうけのチャンスがある。

・今日銀は必ず負けるゲームをやっている。デフレだったらインフレがあまり進まなかった時はウィンウィンだったが.インフレ環境になり円安が進み債務残高がGDPの2.5倍になっている今では長期金利を押さえ込む政策は火遊びみたいなものだ。どこかの時点で日銀は海外のように利上げをせざる得ない。今の制作を続ける意味はもうない。

・だから日銀の現在の政策は大間違いだと思う。日銀が金融緩和政策を変えない限り、円安がこれからも進み、円売りで私たちはもうかるでしょう。ジョージ・ソロス氏がイングランド銀行を追い込んだが、今回は追い込む必要はない。私はソロス氏ではない。日銀と戦う可能性はゼロだ。私はプレッシャーをかけているのではなく、政策修正を待っているだけだ。

 

■日銀は「円安は日本経済にとってプラス」

 

・松原=短期金利(マイナス0.1%据置)と長期金利(10年物国債利回り+-0.25%)の2つの金利をコントロールしているのは日銀だけ。短期金利は欧米が上げており、日本だけが置いてきぼり。日銀が国債を買い入れることで長期金利を0%程度に抑え込むイールドカーブコントールを変えざるを得ないとヘッジファンドは主張している。

・加谷氏=金利と物価は連動しており、長期金利は将来の物価予測と考えられる。長期金利が上がっていくと、将来物価が上がっていくと皆さん捉える。日銀は長期金利があまり上がりすぎないように人為的に抑え込むことで、金利を調整することで今の政策を維持している。世界の市場は現状と合わなくなっている。

・金利は長期のほうが高くなければいけない。短期金利を上げると長期もそれ以上上げないといけない。逆方向になるのはいいことだとは思われない。短期金利を上げるとローンを抱えている人が一気に負担が重くなる。長期も上げざるを得なくなる。今の形が理想的と捉えているのではないか。

・早川氏=長短金利をどちらも上げないのは日銀はかなり頑なになっている。今の状態で無理矢理長期金利を抑え込むとそのシワが為替に出てしまう。長期金利を抑え込もうとすればするほど円安が加速する。私に言わせれば、これ以上円安に進めないためにも長期金利については少し弾力化したほうがいいのではないか。日銀は「円安は日本経済にとってプラス」だと言い張っている。

 

■物価の上昇はこれから

 

松原=国債は日銀が無制限に買い支えてもOKだが、為替は市場介入してもドルが尽きれば(弾切れ)、円の買い支えは不可能になる。勝つとは限らない。

早川氏=日銀は相当ドル持っているのでそう簡単にはヘッジファンドに負けない。イングランド銀行はドル持ちがそれほど多くなかった。円安が進みすぎると、日本国民の不満が高まって日銀ではなく政府としてこれ以上の円安は勘弁してほしいという気持ちになるだろうとヘッジファンドは思っているのではないか。米政府が日本に協力するなら楽勝だが、そうではない。

松原=そうなれば、日銀が政策決定会合を開く今週がイールドカーブ・コントロールを修正する最後のチャンスではないか。

小幡氏=なぜ日銀は修正しないのか。メッセージを出せばいいじゃないか。

堤信輔・ニュース解説者=異常なことを倒錯した形で硬直させてやっている。異次元の金融緩和が1~2年ならあり得る話を10年近くやっていること自体が異常。しかも長期金利をコントールして短期金利は動かさない。岸田政権は物価高対策を取ると言っているが、日銀は物価高対策をまるで取らないという政府・日銀が真逆の方向を結果的に向いている。日銀はどうしようもないと素人の私には見えてしまう。

早川氏=為替レートよりも物価が上がるのはこれからですからね。いままでの物価上昇は基本的には原油や小麦が上がった結果で、最近の円安が物価に表れてくるのは夏ぐらいから。円ドルだと120円分くらいまで反映しているが、その後の分はまだ。だから国民の不満が高まる。だから日銀は負けるというのがファンドの言っていることだ。

 

■日銀の頑なな態度を疑問視

 

松原=国民の不満が溜まるまで日銀は動かないのか。そこまで動かないとリスクがどんどんたまるんじゃないか。放っておいていいんですか?

加谷氏=市場関係者の多くはなぜ日銀がこれほど頑ななのか不思議に思っている。直球で勝負している。政治的配慮もあろうが、黒田総裁自身もこれで突き進むのだと強い意思を持っていると市場関係者は認識しているのではないか。

松原=黒田総裁は3月の時点では「円安は日本経済にとってプラス」と言っていたが、6月17日には「最近の急激な円安はマイナス」と少し修正し始めている。そろそろ変えなくちゃなと匂わせている部分はあるのか。

小幡氏=僕はニューアンスは結構微妙に変わってきていると思う。もう一押しだ。

松原=黒田総裁は政策変更に傾斜していると思うか。

早川氏=思いませんね。「急激な」にアクセントを置いている。マーケットの人たちは「日銀はまだまだ強硬だと思っているので、なぜこんなに強硬なんだろう」という反応だろう。

 

■このままでは日本の財政は破綻へ

 

松原=小幡さんはこうおっしゃっている。「海外からの借金が多かったギリシャと違って日本は90%以上国内で持っている。破綻したら夜逃げはできない」。ギリシャは海外が買っているからとんでもないことになっちゃう。日本は日本国内で処理できてるからギリシャみたいにはならないと何度も聴いている。小幡氏の発言は反対ではないか。

小幡氏=海外の投資家がギリシャの国債を持っていることは投資家の気が変われば出て行くので破綻はしやすい。ギリシャは信用なくなってすぐ破綻する。損するのは海外の投資家だ。日本の場合は国内に金があるから国内で全部破綻の負担を背負わなければならない。日銀に預けている預金が還ってこない。

同=必ず財政は破綻するでしょう。借金はどんどん増えていて、ある時点で国債の買い手がいなくなる。銀行が買って日銀に売る形になっている。国内の金融機関が買わないと成立しないので政府が借金できなくなる。紙くずになる前に資金繰り倒産する。それを私は財政破綻と呼んでいる。これは必ず10年以内に起こる。税収の範囲内でしか予算も組めない。そうなってくると世界は「日本は破綻か」と騒ぎ始める。そうなると株価も暴落しパニックになって破綻状態になる。

早川氏=10年以内に破綻するかどうかは別にして、今のような状態を続けているとそういうリスクが出てくるのは間違いないだろう。ギリシャは自国通貨がない。ユーロは暴落はしない。日本の場合は財政が本当に危ないとみんなが思い始めたら円がもっと暴落する。その結果として物価が上がる。金利が上がる。国債が暴落する。

加谷氏=為替リスクが非常に高いのはその通りだが、やりようがあるので財政破綻の可能性は低いのでないか。小幡さんの言ったことは既に経験済み。太平洋戦争の膨大な戦費はほぼ全額日銀が引き受けてすべてが国内債だったが、破綻をしてしまって1ドル=360円になった理由は円が壊滅的暴落して360円まで下がったことで理屈的には十分あり得る。そういうふうにならないようにできるだけ早く手を打たなければならない。

 

■アベノミクスの結果、日本は「先進国」から脱落

 

・松原=1人当たりのGDPは2013年には4万935ドルだったが、2021年度には3万9340ドルに減っている。すべてが予定と違うことになっていて相当ひどいことが起きている。

・堤氏=異次元緩和とアベノミクスで達成されたのは株高と円安だけ。1人当たりGDPも下がっているし、賃金も他の国にどんどん抜かれて先進国で一番後塵を拝している。この10年の間に日本経済は全然強くなっていないし、逆に破綻のリスクをどんどん抱え込んでいった。

同=これだけ国債に頼って予算を組んでいること自体が素人からみると既に財政破綻んしていると見えなくもない。為替というのは本来相対的なもので、上がったり下がったりする方向性のものだが、今の円は「高いか安いか」ではなく、「弱い通貨」になってしまっていて、このまま行くと円が強い通貨に戻ることはあり得ない。将来に対する日本の辛さではないか。

松原=経済は発展しているとは言えないし、賃金も下がっている。社会保障費も上昇。大企業は利益を得ている。法人税は下がっている。ひとたび破綻が来ると国民にしわ寄せが来る。国民からみると良いことなかったのではないか。

早川氏=僕はほとんどそう思っている。1人当たりのGDPは14位から去年は28位まで下がった。今年はもっと円安になっているから順位はもっと下落する。だから日本は先進国ではなくなりつつある。安倍さんはアベノミクスで日本経済を立て直したとおっしゃっているが、立て直した結果、先進国から脱落する状態になりつつある。

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