【試写会】高いしあまり流通していないし味も忘れてしまったクジラ産業が衰退し続けるワケ=八木景子監督の最新作『鯨のレストラン』

「鯨のレストラン」パンフレット

 

作品名:『鯨のレストラン』
監督・プロデューサー:八木景子
出演:谷光男(鯨屋の大将)
ユージン・ラポワント(ワシントン条約元事務局長)
日本映画/77分/ドキュメンタリー/2023年8月23日@日本医者クラブ
9月2日より新宿K’s cinema,UPLINK吉祥寺などでロードショー

 

■日本、2018年にIWC脱退

 

国際捕鯨委員会(IWC、英ケンブリッジ)は国際捕鯨取締条約に基づき鯨資源の保存および捕鯨産業の秩序ある発展を目的に1946年に設立された国際機関。

日本は1951年に加盟したが、2018年12月26日に脱退を通告し、2019年6月30日に正式に脱退した。12年までは毎年総会が開催されていたが、以降隔年開催となっている。

鯨を持続的に利用する目的で設立された当時はまだ欧米でも鯨油を目当てに捕鯨が盛んだったが、その後鯨油は石油に置き換わっていく。IWCの役割も鯨の保護団体の色合いが強まっていく。

ついに1982年の総会で商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を決めた。その後の国際交渉がまずく、日本は88年には商業捕鯨を中断。さらに2018年の総会ではIWCから脱退し、商業捕鯨を再開する道を選んだ。

鯨は日本が縄文時代から縁起物の食材として大切にしてきた代表的な食文化だが、大々的に商業捕鯨を展開するどころか「愛護団体による脅し」を恐れながら細々と行っているのが実態だ。

 

東京・神田に「一乃谷」というクジラ専門店がある

 

 

■「Behind THE COVE」で国際世論に反論

 

鯨をめぐる国際世論は嫌がらせや不買運動、南氷洋で船への攻撃を行う環境保護団体シーシェパードをヒーローに仕立てた米TV番組「Whale Wars」や2010年に米アカデミー賞を受賞した「THE COVE」があり、日本人が悪者として描かれてきた。

しかし八木景子監督は2015年、そうした国際世論に反論する「Behind THE COVE」を発表。世界の大手メディア各社で報道され、さらにはNetflix社によって2017年8月に世界配信まで行われた。反捕鯨団体とメディアが組んだ裏事情を明らかにし、誰ひとり手を出さなかった「政治的クジラ問題に切り込んでいった。

「Behind THE COVE」の世界配信が始まると合同会社八木フィルムへは世界各地から「シーシェパードがクジラを獲る残虐な日本をやっつけるヒーローだと思っていたが逆だった」「アメージング。シーシェパードへ寄付をやめることにした」「日本人の声が初めて聞けてよかった」と多くの応援メールが届いたという。

シーシェパードの創立者ポール・ワトソンはNetflix社の世界配信が始まると同時に、南氷洋への攻撃停止宣言を行うという成果も出た。

「Behind THE COVE」は米ニューヨークやロサンゼルスでの劇場公開も果たしている。日本の捕鯨を残虐に描きアカデミー賞を受賞した「THE COVE」を選んだ審査員に反論映画を見せることにも成功した。

 

 

■鯨食の魅力知って欲しい

 

今回製作された「鯨のレストラン」は日本が長年蓄積され一般的に知られていない「鯨の研究データ」や「鯨食の魅力」などをたくさん盛り込んでいる。

鯨は先人達が「商売繁盛しますように」「子どもが大きくなりますように」と祀られてきた食材だ。皮肉にも鯨食の衰退と日本の衰退が比例していると八木氏は指摘する。

日本の食料自給率は3割台。日本がまた鯨を輸出できるように外交力を復活させ、「日本はまだ終わっていない」と日本が再び元気になってほしいとの願いを込め「鯨のレストラン」を製作したと八木監督は言う。

 

会見する八木景子監督

 

■「クジラは家族」と捕鯨反対派

 

「クジラの値段は高いし、あまり流通していないし、海外から圧力あるのなら止めてしまってもよいのではないか」という意見をよく聞く。しかし、それでよいのだろうか。

捕鯨支持派は「クジラは海に豊富にいる。自然資源を皆で活用しよう」と言うが、捕鯨反対派にとって「クジラは人間の家族と同等である」。頭数が多い少ないは関係ないらしい。

こうなってくると、共通点を見出すのは難しい。そう思うのは勝手だが、それを押しつけないでくれというしかない。ましてやそれを国際法で決めつけるなんておかしい。

しかし、おかしいことが国際的にまかり通るのが世界でもある。こんな世界に誰がしたと言いたいが、そうした責任の一端は日本でもあるのだからどうにもならない。

八木景子監督は上映後の会見で、「IWCの中で鯨についてきちんと調査しているのは日本くらいしかなくて、脱退した後も日本は義務もないのに調査結果をIWCにわざわざ報告している。しかしIWCのサイトではそれが更新されない。日本が勝手に調査し報告していることになっているからだ。どんどん資源数が分からなくなっているのが実態だ」と述べた。

いずれにしても「鯨肉がうまくて安ければ誰でも食う」のが自然な姿だが、日本がIWC脱退後も官製捕鯨船は1隻だけの結果、「クジラは高くて誰も食べられない。市中にはほとんど流通していない」実態が続いている。

「うまくて安ければ誰でも食う」状態を作り出すためにIWCを脱退したのだが、これでは何のために脱退したのか分からない。不思議な状態が続いている。

 

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