【試写会】社会の寛容さを我が事として考える『過去負う者』=より包容力のある社会の大切さを感じてもらいたいと舩橋淳監督

パンフレット(表)

 

テーマ:試写会「過去負う者」
撮影・録音・脚本・編集・監督:舩橋淳(ふなはし・あつし)
プロデューサー:舩橋淳、植山英美
出演:辻井拓/久保井淳/田口善央/紀那きりこ/峰あんり/
満園雄太/みやたに/伊藤恵/小林なるみ/平井早紀
2023年9月4日@日本記者クラブ/125分/日本映画
2023年10月上旬 ポレポレ東中野にてロードショー

 

■出演者は殺人者、わいせつ犯、薬物常習者

 

受刑者向けの就職情報誌「CHANGE」編集チームは、出所者の就職あっせんと更生支援をしていた。チームの1人藤村(35)は、ひき逃げによる殺人罪で10年服役した田中(34)を担当し、中華料理屋に就職させたものの、田中はキレやすい性格でトラブル続きでまいっていた。

女子児童へのわいせつ行為により2年服役した元教師・三隅(37)は、職に就いたとたんすぐ消息を絶ち、チームを落胆させる。

薬物常習で2年服役後出所した森(30)は清掃会社で働くものの、長年続くコミュニケーション障害でなかなか社会になじめない生活を送っている。

社会復帰に向けてもがき苦しむ元受刑者を目の当たりにした藤村らは、アメリカの演劇による心理療法・ドラマセラピーを提案。元受刑者たちと稽古を重ね、舞台「ツミビト」を公開するまでに至るのだが・・・。

舞台初日の観客の反応は、彼らにとって全くの予想外だった。

 

■なぜ日本の再犯率は高いのか?

 

日本の刑務所満期出所者が5年以内に再犯し、再び入所する率は約50%。「世界1安全な国」を標榜しながら、一体、なぜ出所者は再び罪を犯してしまうのか?

背景には、再入所者の7割が無職だったという事実が示すように、元受刑者は「就労」がしづらいという大きな問題が横たわる。

単にお金を稼ぎ、安定した住居を得るというだけではなく、他人から認められる意味でも社会復帰に重要とされている就労の問題は、数多くある映画の中でも、これまで大きく取り上げられることはなかった。

本作は、受刑者の採用を支援している実在の就職情報誌「Chance!!」(株式会社ヒューマン・コメディ発行)活動にヒントを得て制作された劇映画である。監督は劇映画からドキュメンタリーまでは幅広く手掛ける舩橋淳。

実際のセクハラ事件に基づいて役者との即興劇で描いた前作『ある職場』(2022)と同様、自らプロデューサーも務め、前作とほぼ同じキャスト・スタッフで、前科者の社会復帰に横たわる問題を描いた。

その先に見据えるのは、社会の不寛容が新たな犯罪を生んでしまう悪環境を変えたいという想いだ。あえて台本は用意せず、現場で俳優と演技を煮詰めてゆく「ドキュメンタリー×ドラマ」の演出手法は、見る者に震えるようなリアリティーをもたらす。

 

上映後会見する舩橋淳監督

 

■話題作、続々と

 

舩橋淳監督は東京大学教養学部を卒業後、米ニューヨーク・マンハッタンにある芸術大学スクール・オブ・ビジュアル・アーツで映画制作を学んだ。第1作『echoes』(2001)、第2作『Big River』(2006)、福島原発事故を描いた『フタバから遠く離れて』(2012)、メロドラマ『桜並木の満開の下に』(2013)などの作品はいろんな国際映画祭で受賞している。

日米葡(ほ:ポルトガル)合作『ポルトガルの恋人たち 時の記憶』(2018)では主演の柄本佑がキネマ旬報最優秀男優賞。日本のジェンダー不平等を問いかける最新作『ある職場』は東京国際映画祭2020に選ばれ、全国で公開された。

著書は「まだ見ぬ映画言語に向けて」(吉田喜重監督との共著、作品社)、「フタバから遠く離れて」「フタバから遠く離れて第二部」(ともに岩波書店)などがある。

映画業界の構造改革を訴えかける運動action4cinema(代表:是枝裕和、諏訪敦彦)のメンバーとしても活躍している。

 

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