「根拠が怪しくても軍事行動を起こす」米国と「隠蔽で信用失墜した」イランの戦い

 

緊張の高まる米・イラン関係について話する田中浩一郎氏

緊張の高まる米・イラン関係について話する田中浩一郎氏

 

ゲスト:田中浩一郎(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
テーマ:米国・イラン軍事的緊張の行方
2020年1月17日@日本記者クラブ

 

イランと米国との緊張は1979年のイラン・イスラム革命以来続いているが、2020年1月2日に米軍がイラン革命防衛隊(IRGC)精鋭組織「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を空爆で殺害したと発表したことで一挙に高まった。

石油輸送ルートの要であるホルムズ海峡に緊張が高まると、影響は中東のみにとどまらず、世界中に及ぶ。エネルギー源としての原油の地位は低下しているとはいうものの、なおその存在は大きい。

ソレイマニ暗殺はトランプ米大統領の指示を受けた措置で、イラクの首都バグダッドの国際空港で現地時間の3日未明、同氏の車列に対するドローン攻撃を受けた。トランプ大統領は3日、ツイッターで「ソレイマニ司令官が多くの米国人の殺害を計画していた」と指摘。「海外の米国人を守るため」と説明した。

米国防総省は昨年12月に起こったイラクの米大使館襲撃事件もソレイマニ氏が承認していたと指摘した。19年以降に駐留米軍などを標的とした攻撃が10回以上あったが、これらにも関与していたという。

イラン革命防衛隊は昨年6月20日、南部ホルムズガン州に侵入してきた米国の無人偵察機を地対空ミサイルによって撃墜。米軍は20日夜にイランへの報復措置に踏み切ることを計画。イランの3拠点を攻撃する態勢に入った。

トランプ大統領は結局、直前に米軍高官から「攻撃による死者が150人に及ぶと聞き、10分前に中止を命じた」ことによって全面戦争の危機はひとまず逃れられた。

米国とイランとの間では対立構造が常態になっている。双方の歴史観が大きく食い違うこともあって両国間の緊張は1979年のイスラム革命以来、過去40年以上にわたって消えていない。オバマ前大統領がようやくまとめたイラン核合意(JCPOA)からトランプ氏は離脱し、イラン最高指導者ハメネイ師に制裁を科した。オバマケアなど医療保険制度改革を阻止するなどオバマ政権の政策否定である。

トランプ大統領は差し迫った危機の存在なく、ソレイマニ暗殺を断行したことは大きい。田中教授は「現在の米国は根拠が曖昧でも軍事行動を起こす」と述べた。

 

イランによる在イラク米軍基地ミサイル攻撃

米軍基地を攻撃するイランのミサイル(テレビ朝日)

 

ハメネイ師

米国に警告を与えるハメネイ師(同)

 

イランはソレイマニ氏追討儀式を終えた7日に「殉教者ソレイマニ」作戦を展開、イラク中西部にあるアサド空軍基地などを弾道ミサイルで報復攻撃した。これを報復の第一弾とし、第2弾の報復も計画としていたが、同時にイラン革命防衛隊によるウクライナ国際航空機撃墜事件(乗客乗員176人全員死亡)も発生した。

乗客はイラン82人、カナダ人63人、ウクライナ人11人、スウェーデン10人、アフガニスタン人7人、イギリス人3人の167人。乗員は9人。混乱の中で起きた誤射は”悲劇”だが、「イランにとって外交的な大失態であることは間違いない」と田中教授は指摘する。

イラン革命防衛隊のサラミ司令官は12日、テヘラン周辺で起きたウクライナ機撃墜の経緯について、国会で「我々は過ちを犯した」と謝罪した。航空部隊を率いるハジザデ司令官は誤射を8日のうちに認識していたというが、イランは誤射の可能性を指摘する欧米に「真っ赤のウソだ」と反論し、事実を公表したのは11日になってから。

3日間にわたってイラン指導部は事実を知らされていなかった、ことになる。ミスを犯した革命防衛隊をイラン政府が十分に統制できていなかったことも明らかになってきている。「イランは3日間隠蔽を続けたことによる信用失墜は甚大」(田中教授)だ。

「勝ち目のない戦争はしたくない」イランと、長期戦と泥沼化が怖い米国の双方に思惑が潜んでいる。先端兵器の水準に大きな差があるほか、イランの同盟関係は脆弱なほか、継戦能力にも疑問符を抱えている。

イラン国内は3日間にわたる隠蔽と虚偽の報告に不満が爆発し、国営テレビ放送ニュース番組のアンカーたちが生放送中に突然辞職すると発表したほか、体制護持の要であるイラン革命防衛隊と軍最高指揮官を非難するなど国内ナショナリズムが沸騰しているという。1978~79年の革命運動時と類似点を指摘する向きもある。

国内ではデモも発生し、「ハメネイに死を!」と体制への反逆色が前面に出ているほか、革命防衛隊兵士へも「恥を知れ!」などと罵詈雑言を浴びせているという。

イランは本当にこれからどうなっていくのか?トランプ大統領が政権の座を降りれば状況は変わるのだろうか?これでもか、これでもかというほどの経済制裁に打ちひしがれ、同国経済は厳しい。国民は耐えている。

トランプ大統領の主張を疑う人はたくさんいる。中東空域を支配し、自国の言い分に従わない国には容赦なくミサイルを撃ち込む。米国は信用できない国のはずである。しかし、このトランプ大統領をしっかりと支持している支持層も国内では堅固なそうだ。共和党も大統領に頭を押さえつけられている。

世界の市場はトランプ再選が株価上昇につながると読んでいる。株価上昇が全世界の人にとってなら上昇万歳だが、どうも一握りのリッチ層だけとなると話はまるで違ってくる。イランを助けてやりたいと思うのは私独りだろうか。

 

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