2回のワクチン接種が終わるまでは当事者意識を持って「自分の身は自分で守る」ことが大事=宮坂晶之阪大教授

 

登壇した阪大の宮坂教授

 

ゲスト:宮坂晶之(みやさか・まさゆき)・大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授/同大学名誉教授
テーマ:新型コロナ「変異ウイルスとワクチン」
2021年5月11日@日本記者クラブ

 

■変異株下では「マスク+送風・換気」がマスト

 

大阪大学免疫学フロンティア研究センターの招へい教授で、免疫学の第一人者である宮坂昌之同大学名誉教授が11日、リモートで会見し、最近の知見を基に変異株の現状、ワクチンの効果などについて話した。

・現在分かっているのは変異株の全体の5%を解析したものだが、おおよそ全体を示していると私は考えている。

・感染経路は当初は飛沫と接触と言われたが、今は飛沫が優勢であると考えられている。1~2mで落ちる大きな飛沫と数m離れたところで漂ったまま存在するマイクロ飛沫(エアロゾル)。

・マスクの防御効果は完全ではない。フェイスシールドはもっと駄目である。不織布マスクでもマイクロ飛沫は侵入してくる。マスク+十分な送風・換気がないとだめである。変異株の下ではマストだ。

 

ウイルスとヒトの細胞の表面(宮坂教授提供資料)

 

■コロナはウイルス感染を防ぎにくい性質を持っている

 

・ウイルス粒子の表面には100本ほどのスパイクタンパク質が突き出ている。それを鍵だとすれば、人の細胞の表面にはウイルス受容体が存在し、それは鍵穴の役割を担っている。この結合が起こったときにウイルスは細胞の中に侵入し、増えたときは感染という状態になる。

・ウイルスは10分あれば細胞内に侵入する。1個が細胞内に入ると1000個になって放出されるが、それには10時間かかる。1000個のウイルスが1000個の細胞に放出されるので1000の1000倍、さらにその1000倍というふうにウイルスは増殖する。

・ところが人間の体には簡単にウイルス感染を起こさせないメカニズムがある。ウイルスが体内に侵入してくると、1型インターフェロンが作られる。これが典型的な抗ウイルス活性を持つサイトカイン(タンパク質)。インターフェロンがきちんと分泌された場合には細胞はウイルス抵抗性となり、ウイルスの増殖は止まる。ウイルスが増えにくい状態ができる。

・しかし、新型コロナで困ったのはウイルスが細胞の中に入ってくると、なぜか1型インターフェロンがうまく作られない。よってウイルス感染がどんどん進んでしまう。1型インターフェロンをうまく作らせない機能をコロナウイルスは持っている。

・コロナに感染しても症状がないか軽くて済んでいる感染者。一方で重症化している人。この2群に分かれている。この違いは何にあるのか。重症者の10%はインターフェロンの自己抗体を作っていたことが分かった。(難病情報センター/本来は自分の身体に対しては抗体は作られないが、自己免疫疾患と呼ばれる一連の病気では自己抗体が出現して病気が起こる)。感染によって誘導されたと考えられる。抗体はインターフェロンの活動を止めるので機能しなくなる。自然免疫反応を抑える。

 

50代を超えると重症化率、死亡率がぐんと高くなる

 

■8割の既存コロナ感染者は他人を感染させない

 

・50代を超えると重症化率、死亡率がぐんと高くなる。重症化率の場合、30代を1倍とすると、50代で10倍、60代で25倍、70代に47倍、80代で71倍、90代で78倍。年寄りはもともとインターフェロンの産生能が低いうえ、インターフェロン自体も抑えられるとなればウイルスの増殖は止まらない。

・そこに基礎疾患があると重症化のリスクは増す。慢性閉鎖性肺疾患(COPD),慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患、喫煙、肥満など。これらの病気の治療がきちんと行われコントロールされていると重症化のリスクは上がらない。

新型コロナはインフルエンザ程度の病気なのか?年齢によって大きく答えが違う。若い人たちは概ねインフルエンザ程度だが、高齢者にとっては全く違う病気だ。特に変異株が出現している現在はまったく別物と考えるべきだ。

・このような感染が起こると、1つの細胞からたくさんのウイルスが出芽して外に放出されて次の細胞が感染をする。侵入するのは10分だが、10時間後には1000倍、1000倍のゲームが起きていく。

・感染者だからと言って、必ずしも他人にうつすとは限らない。多くの人は誰にも感染させないが、一部に1人で多くの人に感染させる人(スーパースプレッダー)が明らかに存在する。このスーパースプレッダーだけを見つけ出し隔離すれば感染拡大を防ぐことができる。スーパースプレッダーはアメリカで調査が始まっているが、口や鼻から大量のウイルスを吐き出すはず。声の大きい人、肥満度の高い人。まだ明らかではない。

・ウイルス粒子の存在を検出できる迅速診断キットが開発されれば、スーパースプレッダーの同定ができるかもしれない。ドイツはジャーマンシェパードを訓練すればコロナ患者の汗を94%の確率でかぎわけることができる。フィンランドにはコロナ探索犬がいて9割の確率でコロナ陽性者を捕捉する。

・パーキンソン病についてエレクトリックノーズができ始めている。コロナ用のエレクトリックノーズができれば利用できるようになるかもしれない。まんざらそう遠くない話かもしれない。

 

からだのメカニズム

 

■からだの免疫力は自然免疫と獲得免疫の総合力

 

・我々はどうやってコロナから身を守っているのか。皮膚や粘膜などの物理的・科学的バリアーや白血球や食細胞などの細胞性バリアーがウイルスに抵抗する自然免疫機構。反応は早く、現在ではある程度記憶もあることが分かった。さらに内側にウイルスが入ってくると、白血球の中のリンパ球が病原菌を排除する。反応は遅いが免疫記憶を持つ獲得免疫機構。病原菌を防ぐ体のメカニズムは2段構えになっている。ウイルスに出会っても容易には感染しないのはこのためだ。コロナなら100個や200個吸い込んでも感染しないだろう。

・ウイルス感染(ワクチン接種)すると自然免疫が活性化し、獲得免疫も活性化する。自然免疫は色細胞にウイルスを殺す。また獲得細胞も司令塔のヘルパーT細胞に対しBリンパ球に抗体でウイルスを殺すよう指令を出したり、キラーT細胞にウイルス感染細胞を殺すよう指示する。抗体がなくても他の細胞がうまく働けば回復・治癒する。からだの抵抗力(=免疫力)は自然免疫と獲得免疫の総合力である。

・コロナの最大の特徴は年代によって感受性が違うこと。インターフェロンに原因がある。20代の感染者が圧倒的に多い。うんと少ないのは10代未満。20代で感染が多いのはウイルス曝露の頻度、量、活動量の問題。かかっても症状が軽く重症化率が低いのは①1型インターフェロンの産生能が高齢者より高い②獲得免疫能力が高いーため。

・日本人の新型コロナ曝露率(新型コロナが体内に入る率)は極めて低く、よくて100人に数人。集団免疫が形成されようがない。集団免疫ができるのを待っていたら感染が収まるのか?ノーだ。その間に多くの高齢者は亡くなる。イギリスとスウェーデンが失敗例。

・異物を除去する抗体ができればどうか。抗体はできればいいという問題ではない。抗体には、善玉(ウイルスを殺す=不活化する=抗体、中和抗体)、悪玉(ウイルスの感染を促進する抗体=病気を悪くする抗体)、 役無し(どちらの機能も持たない抗体)の3種類がある。抗体ができても、必ずしも病原体を殺す善玉だけができるとは限らない。

・多くの場合、回復する人は善玉抗体が増えている人。しかしエイズ感染者の場合、役なしが増え治らない。猫にコロナワクチンを打った場合、悪玉が増えている。すなわち、単に血中に存在する抗体の量だけを測っても、あまり意味がない。本来は、善玉(中和抗体)の量を測らないといけないが、高度の設備を持つ研究室でしかできない。抗体だけみればこれが言える。抗体がすべてではない。

 

 

 

■ワクチンはリスクをあおるだけではなくベネフィット報道も必要

 

・2回のワクチン接種がいつ終わるか分からないことについては「非常に当惑している」。有効性が高いのは間違いないが、安全性が分からない。菅首相もそれを心配しておられ、私も同様で、日本でも治験をしたほうがいいのではないかと申し上げた。契約は済んでいると思っていたが、遅れて今に至った。

・今は日本に入ってきている。どこに止まっているのかというと都道府県で止まっている。ワクチン接種を実施できない態勢になっている。これまでワクチン接種が後半に行われているのはインフルエンザだけ。特定の季節のみ。その季節に準備に準備を重ねて行っている。今回はあわてて使わなければならない。バタバタの状態になっている。歴史上初めてのイベントをやっている。思うように動かないのも無理もないなと思っている。デジタル化も遅れており、やむを得ない。

・事実報道は大きく行われるが、それがどうだったのかについては大きく報じられないのが日本のメディア報道だ。韓国で25人が亡くなった。ワクチンが直接の原因ではないことも判明したが、報道がなかった。ワクチンは怖いという印象を与えたままで終わっている。ノルウェーで脳出血が出ることが報道されたが、調べてみるとワクチンを打たない場合も同じだけでの数脳出血を起こしていた。これも報道なし。

・血栓症も起こった。100万人当たり数人規模のリスクだ。飛行機に乗って事故に遭うのとほぼ同じ。誰も飛行機危ないから乗らないとは言わない。自分が車に乗って死亡事故を起こす確率はその10倍以上高い。そういうリスクに関しては何も言われない。国民は心配するほうが先に立つ。ワクチンのベネフィットをリスクと比較して報道してほしい。

・陰謀論など耳を貸さない人への呼び掛けは「時間を使わないようにしている」。無駄だ。

・どの国も国民の3割、4割が2回の接種を終えないと感染者の上昇が止まらない。5割を超えると下がってくる。オリンピックの前にワクチンによって止まることはない。下がってくるとすれば今年の後半だろうが、どれだけワクチン接種が進むか次第にかかっている。

・コロナが陽性者の8割は他人にうつさないのは既存株の場合。現在の問題は変異株。しかしちゃんとしたデータはまだない。感染者が急増した結果、保健所の疫学的(後追い)検査ができなくなった。おろそかになった。マスクも2枚やっても悪くはないし、距離もとっているし、できるだけ送風・換気の悪いところには行かない。感染対策自体を変えているわけではないが、より慎重に対応している。

・変異株についてはより重要なのは国に入れないようにすること。減らすためには国を閉じること。人の動きを止めること。ここが非常に中途半端になっている。日本は変異株対策ができていない。

・2回のワクチン接種が終了するまでは当事者意識を持って「自分の身は自分で守る」ことが大事だ。

 

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