『オイル・ジレンマ』読書メモ

  『オイル・ジレンマ』(山下真一著、日本経済新聞出版社、2007年6月11日発行)。日経の元シカゴ支局長が4年間の赴任中に取材・執筆したエネルギー関係記事に最新情報を加え、書き直した。記者らしく、現場に足を運んで書いたものだけに、具体的で読み易かった。

①2004年に39万枚だったNYMEX原油先物の1日の平均取引高は、05年には45万枚、06年は76万枚に達した。07年に入ると電子取引も含め80万枚を超える日もあり、原油価格を1バレル50ドルとして単純計算しても、1日の代金は法貨換算で約4兆8000億円にもなる。NYMEXの1銘柄だけで、東証第1部の売買代金を大きく上回る取引が行われていることになる。

②ところが、NYMEXの原油先物は、取引開始から20年ほどしか経っていない、歴史が浅い市場だ。また市場機能が成熟していない面があることは否めない。そもそも市場を創設した当時、投機マネーがこれほど大量に流入し、価格変動が大きくなる事態を想定していなかったのでは、と思わせることが多い。

③例えば、値動きが大きく一定の限度を超えたとき、過熱する取引を冷ますために取引を一時停止する値幅制限の仕組みを見ても、NYMEXにも制度はあるにはあるが、これまで発動されたことはない。原油の値幅は1日にせいぜい2ドル程度なのに、決められた制限値幅は10ドルと開きが大きい。これでは文字通り「抜かずの宝刀」で、効果を発揮することはない。

④商品は、投資対象として見れば、株式や債券と同じ性格のものだが、生活への直接の影響度という点ではまったく異なるものだ。マイクロソフトの株価が下がっても、第一義的に損失を被るのは投資家で、株式投資と縁の薄い生活を送る人には直接の影響は及ばない。ところが原油は、先物市場で書類だけが右から左へと取引される裏側に、何千万人、何億人という消費者の生活がつながっている。NYMEX先物が上がるだけで、カリフォルニア州でガソリン価格が上がり、マサチューセッツ州では一般家庭の暖房用の灯油価格が跳ね上がる。

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