『用心棒日月抄』

書名:用心棒日月抄
著者:藤沢周平
出版社:新潮社(昭和56年3月新潮文庫、昭和51年9月「小説新潮」第1話発表)

 青江又三郎は26歳。故あって人を斬り脱藩、国許からの刺客に追われながらの用心棒稼業。用心棒の赴くところ事件あり、ドラマあり、人情模様あり。

 口入れ屋の吉蔵の紹介で、ある町人の妾宅で飼っている犬の用心棒をたのまれる第1話に始まり、さまざまな種類の用心棒をつとめる。背景にあるのが赤穂事件。浅野家の浪士たちの動きが巷の風聞を賑わす中で、又三郎の仕事もいつしか、それと結びついていく。北国の小藩の脱藩浪人・又三郎の江戸での生活を通して、赤穂事件の経過を語ることになっており、いわば「赤穂事件異聞」とでも呼べそうだ。

 話の本筋は脱藩するに至ったお家の事情。馬廻り組100石の武士だったが、藩主毒殺の陰謀を耳にしたことから、許婚の由亀の父を切る。国許の権力闘争に巻き込まれ、彼の命を狙って国許から派遣されてくる何人もの刺客と死闘を繰り返す。このあたりの剣の腕も頼もしい。

 人物造形も魅力的だ。同じ用心棒の細谷源太夫や口入れ屋の吉蔵など毎回登場する人物に加え、各回の事件に絡んでくる人物たちも造形が深い。表向きは小唄の師匠でありながら、浅野浪人の周辺に出没する謎の女おりん、何者かに狙われ寂しく死ぬ夜鷹のおさき。

 そして出色は佐知。藩士の非違を探る影の集団「嗅足組」の頭領の娘。国許に帰る又三郎を襲い、逆に彼に助けられたことから、江戸で又三郎の強力な味方となる。慎み深く、それでいてタフ。好漢・青江又三郎との交情が何とも滲み込むような味わいだ。

 藤沢周平は『用心棒日月抄』に続き、『孤剣』、『刺客』、『凶刃』を書いた。用心棒シリーズは4冊。第1作の最後で登場してきた佐知は続編でも影に日向となって姿を現す。同シリーズのたまらない魅力になっている。

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