空也もなか
取材の手土産に持っていくものを考えて、銀座の和菓子屋「空也」(中央区銀座6)の「空也もなか」にした。ほとんどが予約分で埋まってしまう商品で、今日も入口のそばに「本日分は売り切れました」の張り紙がしてあった。
空也もなかは最近、何度かいただく機会があったが、自分で電話注文し、店の中に入ったのは初めて。和菓子屋と言えば、普通、商品の陳列棚が置かれ、その中に鎮座しているものだが、この店は違う。
中に入っても陳列棚はなく、あるのは注文を受けた商品をビニール袋に入れ、それをどーんと積み上げてあるだけ。どの商品にも個数と注文主の名前を書いた短冊が貼られていた。
自家消費用もあるが、どうやらお使い物が多いようだ。現金商売で、タクシーで乗り付けてきた旦那衆が現金で、16万円も支払っていたのにはびっくりした。
明治17年、上野池之端で開業し、創業130年。店は戦災で焼失。昭和24年(1949)に銀座6丁目の現在地に移り、今は4代目山口元彦氏が店主を務めている。
「屋号は、初代が関東空也衆の1人であり、その仲間の援助で最中を主として生菓子を始めましたことから、空也念仏に因んで空也とさせていただきました」と店主は書いている。
空也念仏は鉦(かね)やひょうたんを叩きながら念仏を唱えること。最中もひょうたんの形をしている。このビルの中で餡づくりからすべてを行っている。空也(903-972)は平安中期の天台宗の僧。
まだ食べたことはないが、季節限定の「空也餅」という商品もあって、夏目漱石も「我輩は猫である」の中で紹介している。林芙美子や舟橋聖一などの文豪や、梨園のひいきもあったという。世に名物多しだ。