『先祖になる』

 

“老人力”全開のガンコ老人の震災後を追う

“老人力”全開のガンコ老人の震災後を追うドキュメンタリー

 

作品名:『先祖になる』(2012年)
作者:池谷薫監督作品(『延安の娘』<2002年>『蟻の兵隊』<2006年>)
上映会@日本記者クラブ

 

ドキュメンタリー映画作家、池谷薫氏の『先祖になる』を見た。文化大革命に翻弄された父娘を描いた『延安の娘』、日本軍山西省残留問題に切り込んだ『蟻の兵隊』に次ぐ劇場公開映画第3作。上映会の本命は”焼身抗議”を続けるチベット人の心を描く『ルンタ』(7月18日よりロードショー)だったが、残念ながら時間がなかった。

『先祖になる』の主人公は佐藤直志(さとう・なおし)さん。岩手県陸前高田市で半分農業、半分林業(木こり)を営み、仲間から”親分”と慕われている77歳(当時)の老人だ。

「彼の家は1000年に一度の大津波で壊され、消防団員の長男は波にのまれた。彼が決断したのは元の場所に家を建て直すこと。自分は木こりだから、山に入って木を切ればいい。友人から田んぼを借り、田植えもした。仮設住宅には何があってもいかない-」(パンフレット)

「土地に根ざし、土地に生きる人々の行く末を想う彼の強さと優しさは、少しずつ周囲を動かし、生きることの本質を問いかけていく。忍び寄る病魔、耐えがたい腰の痛み、遅々として進まない市の復興計画…。数々の障壁を乗り越えて、77歳の彼は夢をかなえることができるのか―」(同)

 

上映前に作品について語る池谷薫氏

上映前に作品について語る池谷薫氏

 

池谷監督は、「自分は人間に興味がある。それも信念を持った個人に惹かれる」と語った。震災から1カ月後に陸前高田で出会ったのが佐藤さんだった。彼に惚れ込んだ」と言う。現地に1年半通って撮った映画がこの作品だ。東京―岩手は往復1000km、走行距離は5万kmに達した。

佐藤さんはガンコな老人だが、ユーモアもあって、枯れた中にも男の色気もほのかに漂う。自分が山から切り出した材木のお祓いを山伏に頼んだり、けんか七夕の世話人を務めたり、古い歓喜仏の継承者だったり、なかなか多彩・多様な面を持っていて、単なるガンコ爺さんでもないところがユニークだ。それに目を付けた池谷氏はやはり映画監督だ。

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