【Nスペ】『知的ヒントの見つけ方』を読み、結局Nスペ「臨死体験 死ぬとき心はどうなるのか」も見てしまった

 

『知的ヒントの見つけ方』を書いた立花隆氏

 

書名:『知的ヒントの見つけ方』(文春新書)
著者:立花隆
出版社:文藝春秋

 

■文春での仕事量も群を抜いている

 

新型コロナウイルス禍で外出がままならない。よってブログを書いたり、自宅で本を読んで時間をつぶしている。『知の旅は終わらない』(2020年1月20日発行)に続いて『知的ヒントの見つけ方』(2018年2月20日発行)を読んだ。2014年8月号から17年12月号まで月刊「文芸春秋」に書いた巻頭随筆と同じ文春の特集記事などをまとめたものだ。

雑誌に書いたものをまとめたものだが、出版社は普通なかなか雑誌に書いたものを新書という形ですら本にまとめることはしてくれない。これは立花氏が雑誌系ジャーナリストして「田中角栄研究」(1974年文春11月号に発表)を発表し、「muckraking」(堆肥の山をサスマタのような農具でひっかき回す)な仕事をしたことを文春がきちんと評価していることが大きいのではないか。

「あの頃、アメリカ人の友人が私を友達に紹介するのも、『こいつは、いま日本で最も有名なマックレイカーなんだ』と表現したが、『マックレイカー(muckraker)』というのは、米国ジャーナリズムの世界でいちばん腕利きジャーナリストに与える最大の褒め言葉だ」でもあるからだ。

それと同時に、「私は昭和39年(1964年)、大学を卒業すると、この会社(文藝春秋)にすぐに入り、その後、この会社の社員ないし周辺居住者(寄稿家)として、その後、何十年もこの会社の周辺で生計を立てて生きてきている。その間、さまざまな形でこの会社が刊行する活字にかかわってきており、この数十年、この会社が発行する各種印刷物の筆者として、雑誌等もあわせると、私の名前を冠したものが通算していちばん多くなると、しばらく前に聞いたことがある。必ずしも人気作家のたぐいではないが、仕事量の多さはたぶんいまも群を抜いていると思う」ことも大きいはずだ。

 

■眠りに就くのと同じ平静さで死ねる!

 

2014年9月14日、NHKスペシャルでほぼ半年かけて作った思索ドキュメント『臨死体験 死ぬとき心はどうなるのか』が放送された。NHKオンデマンドで閲覧可能だ。結局73分間メモを取りながら見終わった。

「人間70歳を過ぎると、70歳の前と後とではものすごく心境が変わるんですね。何が変わるかというと、自分がどこまで生きるのか分からないけど、そう遠くない日に自分が死ぬだろうことがすごく確実な理解としてある」(立花氏)

「しかし、そうは思っても、お迎えがこないことには、なかなか死ねない。かといってじゃあ自分から進んで死ぬかといえば、それだけのエネルギーはもう残っていないし、そうする理由もない。結局、人間最晩年になると、もうこれ以上生きていなくてもいいやと思いつつ、それでも自分から進んで最後の旅に出る気にもなれない、ある種の優柔不断さの中で生き続けることになる。その根源にあるのは、最後の旅の中にどうしても残る一定の未知なる部分への不安定感だろうと思う」(同)

具体的には、最後の旅の本当の中身は最後まで分からないものながら、人間誰にとっても死ぬということはそれほどこわいことじゃない、恐らく眠りにつくのと同じくらいの心の平静さをもって死ねるはずだというエンディングのメッセージに共感を持たれた人が多かったということではないだろうか。

 

■我思う ゆえに我過つ

 

今回のNスペは立花氏の思索ドキュメントでもある。最初に訪ねたのは脳科学によって臨死体験がどのくらい説明できるかを知るためミシガン大学のジモ・ボルジギン准教授(神経科学)だった。そこではネズミの脳に直接電極を入れて実験。ネズミに薬物を投与し心停止を起こし奥深い部分の脳波を詳細に調査。これまで分からなかった微細な脳波が見つかった。

これまで医学的には心停止を起こすと数秒で脳への血流が止まり、脳活動は止まるとされてきた。ところが心停止後も数10秒間脳波が動き脳活動が続くという事実が分かった。脳は何らかの役割を果たしているのかしれない。臨死体験をしている人の脳も一見活動していないように見えて実は活動しているのではないか。

臨死体験は脳のどういう活動によって起こるのか。彼が詳しく調べ始めたのは体外離脱現象。体から心が離れていく現象だ。人工的に体外離脱の感覚を作りだせるという論文を見つけた。「角回」を刺激すると脳と頭が分離した感覚が生じた。

カロリンスカ研究所でヘンリック・エーソン教授の実験を体験する。イルージョン(幻想)をリアル(現実)に感じる。同教授は体外離脱について、「自分の体を認識する脳内のモデルが崩壊することと関係があるかもしれません。我々は常に脳が作り出す世界に生きているようなものかもしれません。普段は脳が体の位置を正確に把握できているだけなんです。もし脳が正常に脳が機能していなければ体の感覚も崩壊する可能性があるのです」と指摘する。

心が体を離れてしまうという感覚は脳内の仕組みで説明できるる可能性が高い。マサチューセッツ工科大学に向かった。会ったのはノーベル賞受賞者の利根川進氏(理研MIT神経回路遺伝学センター長)。フォールメモリー(偽の記憶)を作る実験を行っているという。人間は脳が高度に発達し想像力を持っているためにフォールスメモリーを作りやすい動物だという。

人間は誤った記憶や感覚を本物だと信じてしまう生き物だ。臨死体験者の不思議な記憶は想像力を働かせるうちに作り上げられたフォールスメモリーではないか。見えてきたのは死の間際に特別な脳の働きが起きるという人間の不思議さだ。

人間が正常にモノを考える底の部分を探求していくと、そういう一番大事な「我が思う、我が感覚する そういうところに一番間違いが起こりやすい。そいうことが人間の本能としてあるんだということが分かってきた」

「我感覚すゆえに我あり」も1つの真実だが、「我感覚すゆえに我過つ」も同じ。正常な部分と狂う部分を合わせ持つ構造なんだという。

 

■「脳が死ぬと心は消える」とトノーニ教授

 

心の一部である意識の研究。意識は科学において「究極の謎」と言われている。人の心には感覚(暑い、寒い)、感情(楽しい、悲しい、うれしい、腹が立つ)、行動(食べる、歩く、本を読む、おしゃべりする)、記憶(旅行に行った、母の言葉、恋人とけんかした)など様々な機能がある。機能を統合するものが意識だ。その人らしさを作り出す自我だ。意識を生み出す神経細胞が脳内のどこに存在するのか全く分からなかった。しかし、諦めるのはまだ早い。ウィスコンシン大学(精神医学)のジュリオ・トノーニ教授の出番だ。「人間の意識とは複雑に絡み合った雲のようなものだ」というのが教授の理論だ。

教授は「意識はすべて数学的に表現できると私は考えている。統合情報理論だ。雲の巣の形によく似ている。私は意識、脳内の情報は雲の巣よりずっと複雑」だと考えているとし、意識の量についても神経細胞の数とつながりの複雑さで表すことができると指摘した。

脳が実際に科学的に意識を作り出していることが分かった。脳のある部分が意識を生み出すことは明らかだ。彼の理論が完全に実証されると、脳が死ぬと神経細胞のつながりはなくなり、心は消えることになる。

このことは機械でも複雑な設計をすれば、意識は生まれることになる。今後意識を持った機械を人工的に作ることは不可能ではない。意識は宇宙の外ではまだ見つけられていない。

トノーニ教授の理論は人類が長年追い求めてきた「死ぬとき心はどうなるのか」との問いに対し、「心は消える」という答えを提示している。

 

■人はなぜ神秘を感じるのか

 

私は最後の瞬間、神秘体験をするのか。さらに知りたいと思った。神秘体験の脳内メカニズムの研究者、ケンタッキー大学医学部のケビン・ネルソン教授は、神秘的な感覚は脳の辺縁系(睡眠や夢などを司る)で起こる現象だと述べた。死の間際、辺縁系は眠りのスイッチを入れると同時に覚醒を促すスイッチも入れる。いわば目覚めながら夢を見る白昼夢のような状態になる。さらに神経物質を大量に放出し人を幸福な気持ちで満たす。

死の間際、人は幸福感に満たされ、それを現実と信じるような強烈な体験をするという。神秘体験は人が長い進化の過程で獲得した本能に近いものではないかと考えている。臨死体験をしやすい人は夢をみやすい脳を持っている人。

神秘体験は意識と現実の間で作り感動的で根源的な現象だが、その詳細は分からないと述べた。「分からないから面白いと思った」と立花氏は語った。

「人の意識は脳内の神経細胞のつながりによって生まれる。死の間際、特別な感覚を持ち神秘的な体験をするように脳の仕組みができている。臨死体験とは人間誰しも死の間際に見る可能性がある奇跡的な夢だと感じている」

立花氏は旅を終えるに当たって、臨死体験研究者で医師のレイモンド・ムーディ博士と会った。「そもそも人生は死ぬまで理解できないものなのです。私たちはみな自分が紡いできた物語つまり人生とは何だったのか。その意味を知りたい思いながら最後の時を迎えるのです。そして死ぬときは臨死体験という冒険が待っているのです」

「死ぬことがそれほど怖いことじゃないことが分かった」「いい夢を見たい。見ようというそういう気持ちで人間は死んでいくことができる」

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