【会見】既に消費拡大による成長路線に転換した中国=250万円以上の中所得者層は2億3500万世帯と米国を上回る-白井慶大教授

白井さゆり・慶応大学教授

 

ゲスト:白井さゆり・慶応大学教授
テーマ:2022年世界経済の見通しと課題=中国と米国を中心に=
2022年1月19日@日本記者クラブ

 

慶応大学の白井さゆり教授が米国、中国を中心とした世界経済の見通しと課題について話した。白井さんは国際経済学、マクロ経済学、アジア経済論、通貨政策が専門。2011年から16年まで日本銀行政策委員か審議委員。司会は播摩卓士(TBS)

 

■日独は回復ペースが加速、米中は減速=ばらつきのある成長パターンに

 

・今年の世界経済は非常にばらつきのある成長パターンに直面すると見ている。ドイツと日本は景気回復ペースが加速する一方、昨年比較的高かかった米国と中国は比較的回復ペースは減速していくだろう。

・金融政策もばらつきが大きくなる年になる。正常化を進めていく国と踏み込まない国が出てくる。米FRBは今年利上げを積極的にやっていくし、持っている資産の縮小も進めていく方向だ。金融政策のスタンスが為替の動向に影響してくるのではないか。

・地政学リスクも高まっている。最大のものは中国と西側(米欧豪)との対立がかなり強まっている。双方のデカプリングは進む。そうなると間に挟まれている東南アジアは中国の影響力が大きいが、米との関係も維持したい中で、不安定な立ち位置になってくる。バランス外交をしてきた日本も西側寄りなので対立は徐々に強まるのではないか。

・中国の輸出が好調で製造業はいいが、消費と不動産は減速している。日本経済の成長を引っ張る要因は1番は設備投資。3%を超える。輸出は既に大きく伸びている。消費はゆっくりと戻ってくるだろう。

・中国向けの輸出が支えてきたが、足下でその力は落ちてきて今年は輸出が主導する状況ではない。

 

■モノの価格が上昇しインフレは進む

 

世界的にインフレ圧力は高まっている。その理由はサプライチェーンが十分回復していないことが大きい。物流を中心にインフレ圧力が高い状況が続いている。コンテナ船がロスで滞留している状況が変わっていないほか、中国のゼロコロナ対策も続いている。もう1つはコロナ感染だ。

・今のインフレは過去のインフレと全然違う。エネルギーの上昇以外にモノの価格が相当上がっている。これまでは先進国のインフレはサービス価格が上昇要因だったが、モノの値段が高くなっていることだ。

・モノの値段が高くなったのは巣ごもり需要が世界的におきてPCやiPAD、人と接触しないように車を買ったり、大きな家に引っ越して家具が必要になった。モノの価格が世界的に上昇した。物流の停滞と重なってインフレを起こしている。モノ価格の上昇はいましばらく続きそう。

・今年利上げが予想されるのは米国とカナダだが、ユーロ圏、豪州、スウェーデンは利上げなし。ノルウェー、ニュージーランド、英国は21年に利上げ実施。日本とスイスは政策変更の予定なし。主要中銀の金融政策はばらつきが出てくる。

・今年の金融資本市場は米長期金利が1.8%台になってきたが、利上げの始まる3月から短期金利が大幅に上昇してくる。資本が入っていない新興国も中国を除いて利上げを行う国がほとんど追随するだろう。為替市場では利上げに伴ってドル高になってくる。円は対ドルで安くなる。ユーロも安くなる。新興国も同様だ。人民元は資本規制もあるので違う動きをするだろうが、大きな下落にはならないとみている

・株式市場は割高な株価を中心に調整が入ってくる。エネルギー関連株、不動産株、IT株はかなり割高になっているので正常化の局面で修正が入りやすい。海外の投資家が日本株に関心を持っている。日本要因だけ見ると株価は上がるが、米株価の影響を受けて下押しされる可能性がある。基調が悪くなくても変動が大きくなると思う。

・中国と西側諸国とのデカプリングは段々進んでいくと思う。人権、経済安全保障、資本市場。特に資本市場については中国で上場させて中国で資金調達させることが加速している。

 

■中国、消費中心の政庁に転換

 

・外資や外国の技術に依存して成長する改革・開放路線で進んできたが、2015年からは自前で米に依存しない国家運営の方向に変わってきた。中国製造2025やインターネット、ブロックチェーン、AIなどに力を入れている。

・貿易は輸出も輸入も進んで国際化が進んだが、それ以外の分野は国際化が進んでいない。対外貿易開放度は進展しているものの、経済・金融は国内志向。主要なセクターは国有企業がほぼ独占、それ以外のセクターで民間が入るのは許す政策は変わっていない。

・中国は結構豊かになってきている。金持ちが増えてきている。自前で資金調達もできるようになっている。

・国有企業の存在感はますます大きいが、民間も成長している。防衛、電力、石油・ガス・石炭、通信、航空・鉄道などは国有企業に維持させている。

・金融機関は71%が国有系銀行。この状態は変わっていない。債券市場も拡大しているが、発行しているのは国有企業だ。

・2008年くらいまではインフラ投資や設備投資を中心に成長し、高い成長を確保しようとしてきたが、2012年くらいから変わってきていて投資から消費を中心の成長に転換している。コロナによって弱まっているが、この方針は維持している。投資によって成長する局面ではなくなった。

・今は消費をどう高めるかに変わってきている。2015年から国家権威下での自立した技術立国を目指している。国家が主導権を握るものの、民間企業やテクノロジー企業の協力も得て技術立国になる。サステナブルな成長を求めてもいる。

・2049年までに世界トップの製造強国になろうとしている。巨大な国内市場を持っていることがこれを可能にする1つの要因であるほか、法人税の優遇・補助金の支給、産業圏・工業団地(インフラ・人材・実験)、国有銀行による低金利・優遇金利。

・共同富裕では最低賃金の引き上げ、中小企業への減税、金融支援の継続策を講じる一方、中小企業向けの北京取引所を開設した。など。また成長と金融安定のバランス、地球温暖化対応を推進している。

・中国が自信を持っているのは1人当たりのGDPがこの20年間で11倍増え1万1000ドルに達した。世銀分類で中所得国の一番上だ。中所得国の中でも豊かな国。250万円以上の所得を持つ世帯数2億3500万世帯で、30年までに68%増え3億9500万世帯になると予想されている(IMF,McKinsey)。

・この基準によると、中国の1人当たりのGDPは既に現時点で米国を上回っている。米国の世帯数は20年が1億1900万世帯、30年でも1億2600万世帯。米国よりも金持ちが多い。既に米国を超えていて、今後豊かな人は多少増えるだけ。中国は中所得・高所得層が増加してくるので市場の発展度からみるともはや米国ではない。

・米商工会議所のアンケート調査によると、中国に進出している米企業の利益率は高い。撤退する方針がない企業がほとんど。いろいろ問題があるし米中対立の問題もあるが、市場が相当成長している。海外の投資家が無視できない国なった。

 

■中国の株式・債券市場、米国に次ぐ2位に

 

・金融センターはここ数年すごく伸びている。株式市場は今は米国が中心だが、中国は本土(上海、深圳、北京)だけで第Ⅱ位になってきている。IPOは米国に次ぐ。海外ではなく、中国本土で登録制にして上場しやすくした。中国で人民元で市場を作ろうとしている。

・債券市場も米国に次いで第Ⅱ位になってきている。社債発行残高も伸び、環境債発行残高も日本の6倍。グリーン市場としても大きく成長してきている。無視できない。

・2022年の中国政府の優先課題は安定成長のもとで、「共同富裕」「債務の抑制」「消費主導の成長」を維持する。

・持続的な財政と穏健な金融政策の維持。

・経済成長率は21年8%程度から5~5.5%へ低下する見込み。

・しかし①増加する中高所世帯の数②拡大する金融市場③技術力向上のもとで、海外投資家、企業の対中国投資への高い関心は維持される。

・先進国の企業にとって中国投資リスクは高まっていく(人権、安全保障、データ保護)が、投資は続きそう。

 

■米国に投資するとやはりもうかる

 

・米国のすごいところは成熟国だが、いまだに直接投資される国だ。米国への投資が多い。IT系のテック企業がどんどん育ってきている。技術革新が世界トップレベル。企業の収益力が高い。非常に魅力的だ

・この直接投資がどこから来ているのか。中心は日本と欧州から。欧州の大陸でもうけた利益よりも米国に進出してもうけた利益のほうがはるかに多い。アメリカは投資するとやっぱりもうかる。ダイナミズムがあるから、世界から一番投資される国。米国には底力がある。

・昨年11月頃まではインフレは一時的なので「雇用最大化」に力点を置いていた。しかしパウエル議長再任会見時点から「インフレ重視」にコロッと変わった。金融政策の正常化を急ぎ始めた。

・インフレの要因はエネルギーとモノ。一気に需要が増えたので世界的にモノの値段が上がった。巣ごもり需要の増大で供給が追いつかない。今までは上がらなかったのに急に上がり始めた。コロナも続いている。あわてて正常化に踏み切った。

・米国のインフレ要因は世界的な要因のほうが大きい。不安定なエネルギー価格の上昇や不安的なグローバルサプライチェーン。コロナ感染症、モノへの高い需要。FRBがコントロールできない。

・インフレ率が賃金の伸びを上回っている。名目賃金は上昇しているが、実質賃金は下落している。国民は不満を持っている。中間選挙も民主党の敗北が予想され、今必死にインフレを抑えようとしている。

・前回の金融政策正常化の手順は2014年10月から19年だった。この時は10カ月かけてテーパリングを完了した。最初の利上げは1年後の15年12月。1年と10カ月かけて持っている資産の縮小を始めた。のんびりとやった。

・今回はものすごい急ピッチで行う。テーパリングは11月に始めて3月にやめる。最初の利上げが恐らく3月で年内に4回利上げがありそう。

・急激な利上げを行うことにより好調な業種とそうでない業種が出てくる。業種間の差が出てくる。

・米国経済の成長率は19年の5.5%から22年は4%程度に低下する。潜在成長率(1.8%)を大きく超える経済成長を継続するが、成長は減速する。

・今年のインフレ率は3%を上回りそう。利上げを急いであとで調整する。

・資産縮小ペースが重要。10年金利は2%を超えてくるとみている。

 

 

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.