『山懐に抱かれて』

 

パンフレットに写った吉塚一家

 

北海道留萌郡小平町寧楽で作られたソーセージンを使ったホットドッグと山地酪農牛乳(カフェ「ポレポレ坐」)

 

作品名:『山懐(やまふところ)に抱かれて』
出演:吉塚家のみなさん
熊谷牧場の2人
監督・プロデューサー:遠藤隆(テレビ岩手)
2019年5月3日@ポレポレ東中野

 

この日はまず飯田橋ギンレイホールに行ったが、行列に並んだところ「立ち見です」との声が掛かった。話題作『万引き家族』の上映最終日だった。

次なる選択肢はポレポレ東中野で上映されているこの作品だった。平成30年度文化庁芸術祭賞テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞を受賞した作品である。同時にテレビ岩手開局50周年記念作品でもある。

岩手県下閉伊郡田野畑村。「みんなが幸せになる、おいしい牛乳をつくりたい」と、山の牧場を切り拓く父と母と7人の子どもたち。

理想の酪農「山地酪農」(やまちらくのう)の実現を胸に、東京農業大学卒業後すぐに千葉から田野畑へ移住した吉塚公雄(よしづか・きみお)はその後単独で牧場開拓を開始した。

プレハブの家でのランプ生活が続くなか、妻・登志子(としこ)との間に授かった7人の子どもたちとともに、山林を切り拓き、シバを植え、乳牛を放つ。

牛がのんびりと過ごし、自由に交配し、子牛を生み、牛乳が生み出され、糞尿を落とし、山が育ち、シバが再生され、それをまた牛が菜食する。これが植物学者の楢原恭爾(なおはら・きょうじ、1908~1987年)氏の唱える山地酪農だ。

大学在学中に猶原氏と出会い、山地酪農に人生をかける決心をし、卒業後、既に山地酪農を実践していた先輩の熊谷さんを頼って田野畑村に移住。自らの手で山を牧場に開拓し、熊谷牧場と二人三脚で「田野畑山地酪農牛乳」を創設した。

猶原氏と山地酪農に出会ったのは1971年、公雄が20歳のときだった。2019年の現在68歳。苦難の道だった。季節はめぐり、子どもたちも育っていく。

5男2女の7人の子どものうち、長女・都は吉塚牧場に来ていた実習生と結婚。のちに夫の母のいる岡山県へ移住。次男・恭次(きょうじ)は自らの酪農方法を見出し北海道中標津町で酪農を行っている。

頑固一徹の公雄には兄弟思いの優しい長男・公太郎(こうたろう)、営業を任せられている3男・純平(じゅんぺい)、台所にも立つ母思いの4男・勇志(ゆうし)、末っ子の5男・壮太(そうた)が父を支えている。