コウノトリ自然放鳥

 コウノトリが飛び立つ姿を初めて見た。彼らにとっても初めての空。本当に飛び立ってくれるのか、一抹の不安も抱えながらの放鳥。何が起こるか、予想できない状況下での人為的な試みだが、見事に飛び立った。よく晴れた秋空に華麗に舞う姿は本当に美しかった。いいものを見た。場所は兵庫県の北部、豊岡市の円山川左岸(市街地側)だ。

 この日飛び立ったのは3羽。昨年9月24日の1回目の放鳥は県立コウノトリの郷公園内での放鳥だったが、今回は丸山川の河川敷。完全に自由行動だ。どこから飛び立ってもう帰ってこないことも十分想定される。

長さ:嘴から脚の先まで約1.4m
翼開長:翼を広げると2m前後
体重:4-5kg
餌:肉食性で、ドジョウ、フナなどの魚類やカエル、ミミズ、バッタなどの生きた小動物
分布:極東を中心に、推定約2000羽。嘴は黒、脚と目の周囲は赤色。繁殖地はシベリア、中国は越冬地。大陸では渡りを行い、途中、日本に飛来することもある。近縁種のシュバシコウ(嘴が朱色)は欧州中心に85万羽分布。

 コウノトリは昭和46年(1971年)一度絶滅している。豊岡市内で保護されていた野外に残っていた最後の1羽が死亡した。その後、昭和60年にロシア(ハバロフスク地方)から野生の幼鳥6を受贈し、復活への取り組みが始まった。

 絶滅したのは地域住民がコウノトリは「要らん」と考えたからだと、コウノトリ野生復帰推進連絡協議会の保田茂会長は指摘する。それが今度は「要る」に変わった。これは人間側の勝手な考えで、コウノトリは果たしてどう思うのか。「住民側がコウノトリと一緒に住む気持ちになってもらわないと持続しない」(保田会長)のは確かだろう。

 コウノトリと共生するためにはコウノトリが棲める環境を整備しなければならない。農薬を大量に使用するコメづくりも根本から改めなければならない。農民にとっては生き方、生活の仕方そのものを変える必要がある。

 決して楽なことではない。「コウノトリと共生する」との理念は美しいが、その取り組みはむしろ、ドロにまみれた汗との格闘だ。これはコウノトリとの共生だけに限るまい。人生のあらゆる局面に共通する心理だ。楽なことはどこにもなさそうだ。

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