「新聞社」

 

 元毎日新聞社常務取締役(営業・総合メディア担当)が書いた『新聞社』(新潮新書)を読んだ。「破綻したビジネスモデル」という恐ろしい副題が付いている。業界の内部にいる者にとっては新しくも何ともないかもしれないが、それを書いたのが役員にまで上り詰めた人間だというのはやはり衝撃的だ。

 今年の3月に出版されてもう5カ月経っている。どこかの書評で書名だけは見た記憶がかすかに残っていたが、1週間ほど前に知人から内容を含めて指摘されるまですっかり忘れていた。お得意様の業界事情はやはり気になるものだ。

 業界実態はともかく、新聞再生のビジネスモデルに興味があったが、最後の第5章「IT社会と新聞の未来図」でやっと触れられている。「Eーペーパーという何百何千の電子瓦版を世に問う。その1つ1つが1000人単位の読者を得、アメーバのように増殖してゆけば・・・。いきます」。

 「日本で、世界でいま何が起きているのか。時代にどのような意味を持つのか、それが自分の生活にどんな影響を与えるのか」という「知」への欲求に応える機能を信じて、「瓦版」という新聞の原点に立ち帰ることで、新たな一歩を歩むことを提唱している。

 新ビジネスモデルは自分で実行したかったが、社内事情などで果たせなかった。その無念さを込めたのがどうやら本書のようだ。好き勝手やらせてもらって常務にまで上り詰めた人が退社後、こんなことを書くのは残っている社員に失礼だと思うが、実態を知る上では参考になった。

 それにしても、あとがきの中で山本七平氏の『日本はなぜ敗れるのか-敗因21カ条』(角川書店)の文章を引用しているが、それには全く同感だ。

 「真の危機というものは、いくら大声で叫んでも人の耳に入らない。人は組織の中で有形無形の身のまわりの小さな危機に自己規定され、大きな危機を叫ぶ声を小耳に挟みはしても、日常業務に忙しい。その無反応に対して危機を叫ぶ者はますます声を大きくするが、オオカミ少年ではないが、ますます人は耳を傾けない。だがその時誰かが具体的な脱出路を示し、そして過半数は脱出できない、と言うと次の瞬間、いっせいに総毛だってその道に殺到する。危機はいつだって脱出路の提示という形でしか認識されない―。」

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