『私塾のすすめ』

 
『私塾のすすめ-ここから創造が生まれる』は斎藤孝/梅田望夫両氏の対談集。ちくま新書。斎藤氏は明治大学文学部教授で、「教育」に情熱を傾注している若手学者。梅田氏はミューズ・アソシエーツ社長で、ウェブ世界の奥の細道をひたすら突き進もうとしているビジネスパーソン。両人とも1960年生まれの50歳手前。

 梅田望夫のウェブサイトはほとんど読んでいないが、そのウェブサイトで書いたものを再凝縮させた著書は惹かれて読んでいる。『ウェブ進化論』『ウェブ時代をゆく』を読んだし、脳科学者の茂木健一郎氏との対談集『フューチャリスト宣言』(いずれもちくま新書)も読んだ。

 どうも梅田氏とは相性がものすごくいいのだ。同氏は『私塾・・』の中で「私の座右の書」として『森有正エッセー集成』『近代絵画』『金子将棋教室』の3冊を挙げているが、驚くことに、森有正と小林秀雄は私にとっても一時心酔した人物なのだ。本当にびっくりした。

・自分が一緒にやりたい、一緒に仕事をしたいという人と仕事ができる喜びを追い求めたい。たまたま隣にいた人とじゃなくて、「志向性」を同じくする世界中のどこかにいる自分と最も気が合う人と何かをしてみたい。「志向性の共同体」という理想を追求できる環境が生まれようとしている(梅田氏)

・ボランティア精神ではありません。好きでやる、関心のあることを勝手にやる、面白そうだと思う問題に自発的に取り組むのが基本。志向性を同じくする人が世界中から見つかってくる。たまたま自分と志向性の合う人が、磁石にすいついてくる。そこで創造が生まれる(同)

・志をもった良き大人、ある志向性を持った大人が、自分はこういう関心をもった人間なんだよ、ということをウェブ上に立ち上げていく広く示していく。こどもでも参加できる。ネットでまずつながり、そしてリアルに発展していく。誰もがネット上で、志向性を同じくする若い人を集めて私塾を開くことができるイメージです。それはウェブ時代たる現代ならではの素晴らしい可能性だと思うんです(同)

・これからの時代は、新しいタイプの強さを個々人が求められていくと思うんです。その強さとは何かを突き詰めて言えば、オープンにしたままで何かをし続ける強さ。たくさんの良いことの中にまざってくる少しの、でもとても嫌なことに耐える強さです。そこを乗り越えて慣れてしまえば、全く違う世界が広がる(同)

・自分がやりたいと思っていることに対して、面白いからどうぞ、と言ってくれる人とのマッチングは、砂金を探すようなものです。僕は基本的に、ものごとというのは、だいたいのことはうまくいかないという世界観を持って生きていますね。人間と人間がわかりあうとか、たまたま組織の中で出会った人と人とが全人格的に切り結ぶことなんかありえない。だから、加点主義というか、一つでもいいことがあれば、その人を肯定する(同)

・大企業であれ小さな会社であれ、かつてよりたくさん仕事をしないといけない時代になっている。ITの進化によって、いつでもどこでも仕事ができる。土曜もできる、日曜もできる、起きたらすぐ仕事ができる、移動中もできる。グローバル化の影響が大きい。起きてから寝るまでずっと仕事をしている。昔に比べて、圧倒的にたくさんの仕事をせざるを得ない。大組織にせよ、組織以外での仕事にせよ、自分とぴったりあったことでない限り、絶対に競争力が出ない時代になってきていると思います(同)

・僕が「好きなことを貫く」ということを、最近、確信犯的に言っている理由というのは、「好きなことを貫くと幸せになれる」というような牧歌的な話じゃなくて、そういう競争環境のなかで、自分の志向性というものに意識的にならないと、サバイバルできないのではないかという危機感があって、それを伝えたいと思うからです(同)

・とにかく、仕事の対象への愛情がないとサバイバルできない。いやいや仕事をしている、長時間やるのが苦痛だという仕事では、これからは競争力が出ない時代なのだと思います(同)

・仕事でサバイバルしていくためには、結局、人との出会いがすべてをドライブしていくから、人との出会いを本当に大事にするということだと思います。数あたらないと、いい人と出会えないから(同)

・最近本当に感じるのは、情報の無限性の前に自分は立っているのだなということです。圧倒的な情報を前にしている。自分の「時間の使い方」に対して自覚的でなければならない。流されたら、本当に何もできないというのが、恐怖感としてあります。何を遮断するかを決めていかないと、何も成し遂げられない。ネットの世界というのは、ますます能動性とか積極性とか選択性とか、そういうものを求められていくなと思う。無限と有限のマッピングみたいなことを本当に上手にやらない限り、一日がすぐに終わってしまう(同)

・僕自身について言えば、「遮断」が習慣になっています。コミュニケーションについてはオープンなのですが、生活のなかで、これはやらないということがものすごく多い。いろんなものにはほとんど手を出さない。結局、深海魚と出会えるくらいに深くもぐらなくては、物事は身につかないという考え方なのです(斉藤氏)

・20世紀はかなり「飢え」をなくして、物質的には極端に豊かになった時代だと思う一方で、幸福感という意味ではあまりうまくいかなかった時代だと思っています。ですから「志向性の共同体」に、21世紀の希望を感じます。参加していることそれ自体が幸福感をもたらすもの。学ぶということには、そういう祝祭的幸福感があります。学んでいること自体が幸福だと言い切れます。共に学ぶというのがさらに楽しい。できれば、先に行く先行者、師がいて。それが「私塾」の良さです。ネット空間でそういうコミュニティーに参加して、幸福感を感じることができれば、それは20世紀との違いを生み出せるのではないかなと思います。「私塾的関係性」を大量発生的に生み出せる可能性がインターネットにはあります。「ネット私塾」が花開くことは、充分期待できます(同)

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