『踊る大捜査線に学ぶ組織論入門』

 

 必要があって図書館から借りてパラパラめくっていたら、すっかり引き込まれてしまった。もう忘れてしまったが、テレビドラマで放映され、その後、映画化された大捜査線シリーズ。映画もテレビで何度も再放送され、リラックスしながら観たが、組織論の対象になるなんて考えてもみなかった。著者の金井壽宏氏は神戸大学大学院経営学研究科教授。目の付け所に感心した。金井教授についてはシンポジウムか何かで一度話を聞いたような気がする。

登場人物は青島刑事(織田裕二)、室井管理官(柳葉敏郎)、和久指導員(いかりや長介)、恩田刑事(深津絵里)など。どんぴしゃりのタイミングで、11日夜、フジテレビ系で再放送。本を見ながら、「事件は会議室で起きているじゃない、現場で起きているんだ」「人が事件を起こすんじゃない、事件が人を起こすんだ」など、印象的なセリフを思い出した。

 警察組織が典型的な縦社会であるのはつとに有名だが、映画で描かれているような、滑稽さを通り越した本部と現場との乖離は既に解消されているはずだ。それでも、映画で青島刑事ら現場が発するセリフが今もそれなりに共感を呼ぶのは警察だけでなく、組織そのものが持つ内部矛盾やその組織に属する人間の葛藤が存続しているからだ。人間が存在し、組織を作って生きていく限り、永遠のテーマだ。

・組織のダイナミズムは、個人のダイナミズムから生まれる。組織を円滑に動かすには、個人が円滑に動いている必要がある。そのようなダイナミズムをもつ組織には、優秀なリーダーの存在が不可欠なのだ。良いリーダーシップはダイナミックな組織体験の積み重ねの中で、一人ひとりの豊かなキャリアパスが交錯し、拮抗し合う中から生まれてくるものである。

・ 組織心理学者のエドガー・H・シャインは、組織や集団における決定には内部者だけだと勘違いが生じるから、外部の人間がプロセス・コンサルタントとして入り、ファシリテーターの役割を務める必要があるという。プロセス・コンサルタントは、正しい意思決定を集団の代わりに下すのではなく、その問題について正しい決定を下せるはずの集団メンバーがよりすぐれた決定を自ら下せるように、そのプロセスを再設計していく。招かれて集団や組織に入る人で、外部者でないと気づかない洞察や、内部者がうすうす気づいているが記述されたことのないリアリティーを提供する。

・やはり「好き」に勝る内発的なモチベーション促進要因はない。とはいえ、「好きなこと」を仕事にするからには、「好きなこと」を嫌いにならないよう、人一倍の努力も必要だ。仕事に対して、「自分はこの仕事が好きだ」というパッションをもっていれば、むずかしい理屈や理論はとりあえず不要だ。実践の積み重ねの中で、パッションだけでは足りないところに、何となく見通しが出てきたら、それがビジョンである。そのパッションやビジョンに、自分なりの理念や信念がついてきたら、それは自分なりのミッションを描けるようになったということだ。「パッション→ビジョン→ミッション」

・人が組織の中で、新しいタスクに責任を負い、部下を率い、リーダーとして振る舞うには、少なくともある一定期間、組織の中でもてる実力やリーダーシップを発揮し、周囲からの信頼を蓄積すること、つまりチームメンバーとして一人前だと受け入れてもらっていく過程が必要である。

・組織を変革に導くリーダーの条件として、経営学者のJ・P・コッターは大きく、「アジェンダ設定」と「ネットワーク構築」を重要なものとして挙げる。アジェンダ設定とは「何をやるべきか」「どこへ向かうべきか」といった、大きなビジョンを描く力である。ネットワーク構築とは、組織の内外で自分の武器となる人間関係、つまり人と人とのつながりを創ることである。

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