『刺客』『凶刃』

書名:『刺客・用心棒日月抄』
   :『凶刃・用心棒日月抄』
著者:藤沢周平
出版社:新潮社(新潮文庫、1983年6月および1991年8月刊行)

 この手の本は読み始めたら最後もう歯止めがきかない。それゆえ、仕事を抱えているときはなるたけ手を出さないようにしているが、抱える仕事が一応なくなったこともあって、手を出してしまった。用心棒シリーズ4部作の第3部と最終部。

 シリーズ第3作目の『刺客』は三度脱藩した青江又三郎が江戸でまたもや、相棒の細谷源太夫と用心棒を務める。今度は女忍者・佐知が率いる藩の影の組織・嗅足組(かぎあしぐみ)を守るためである。佐知の父親の名前もここで明らかにされ、嗅足組の内情も詳しく知らされる。

 当然のことながら、又三郎と佐知との交情が随所にむせ返るように散りばめられる。しかし、現代のようにあからさまに恋・愛が語られ、情欲までも満天下にさらされることはなく、双方とも極めて抑制が効き、かつストイックである。純な大人の愛に飢えた現代人にとってこれが何とも魅力だ。

 文庫本に収められた作家・翻訳家の常盤新平氏の解説によれば、「単行本の『刺客』にはあとがきがあって、作者は、このシリーズ小説はこのへんで終わる、と書かれている」という。ところが、好評なため再開された。それが『凶刃』というわけである。

 『凶刃』の設定は『刺客』以後16年の長い歳月が流れ、主人公の剣客青江又三郎は40半ば、佐知ももうじき40になろうころである。独り身の青年剣士も流石歳を重ね、人生の秋に入り始めた。佐知とて同じ。前3作とがらりと趣を変え、秋の気配が濃厚である。

 国元での平穏な日常を破ったのは、嗅足組解散を伝える密命を帯びた江戸出府。藩の秘密をめぐる暗闘が繰り広げられ、又三郎と佐知はその秘密を解くべき、協力し合って、謎に迫る。目的を達した2人にはまたもや、別れのときがやってきた。

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