さよなら!マイ・ウオッチ


     (JR中野駅北口から中野ブロードウェイに続くサンモール商店街)

 右利きなのに右手にずっとはめてきたデジタル・ウオッチ「シチズン・クオーツ・ライト」。シチズンが1976年(昭和51年)に世界初のデジタル式アラーム機能付き腕時計として発売した「クリストロンLCアラーム」だ。発売記念にもらったものだが、つい数日前まで右腕で3分進んだ時刻を刻んでいた。そのウオッチの命脈もどうやら尽きた。

 私が社会人になったのは1974年で、1つの会社に運よく継続勤務し定年を迎えたのが2008年。34年間に及んだ会社人生をずっと一緒に走ってきた伴走者であり、活動のほとんどの場面に立ち会ってきた、いわば生き証人的存在だ。おおげさに言えば、”戦友”である。

 会社人生の第一線を退いた後も動き続け、通算何と36年目。数年前からライトが点かなくなり、アラームも機能停止。それでも時・分・秒を正確に刻んできた。しかし数日前に3分進みを修正しようといじっているうちに表示が変わってしまい、元にも戻らなくなった。

 何とかしてもらおうとメーカーのサポートセンターに駆け込んだものの、内部回路に障害が発生しており、部品供給がとっくの昔に終わっている以上、修理自体を受け入れられないと宣告されてしまった。辛うじて動き続けているものの、時刻表示が不正確である以上、もう時計とは呼べない。

 軽量小型が幅を利かす現代では、ずしりと重いウオッチなど時代遅れも甚だしいが、36年間もずっとはめていると、文字通り”片腕”になってしまった。外すと、腕が物足りない。自分の身体でないように思うから不思議である。長い間には、もっと新しく、ずっと軽く、しゃれた製品に”浮気”もしたものの、いつの間にか”本妻”に戻っていた。

 このウオッチにはやはり金属のバンドがふさわしく、何年も、何十年もはめているうちにお気に入りのバーバリーのトレンチコートやジャケットのそでが擦り切れてしまった。腕を無意識に動かしているうちに、金属バンドが袖口に当たり、繊維を切り刻んだのだ。

 サポートセンターのラックに置かれたカタログを見ると、今や時計を動かしているのは電池ではなく、光のエネルギー。時刻合わせも、誤差が十万年に1秒という原子時計を基に発信される標準電波を受信して行うのだという。「光で、時が進む。電波で、時を刻む」エコ・ドライブ電波時計の時代らしい。

 「デジタル・クオーツ・ライト」は最初期のデジタル・ウオッチ時代の使命を終えたのかもしれない。ウオッチの使用者が既に会社定年を迎えたのに、その後2年間も定年延長で、”現役勤め”を強いられてきたのだ。不正表示は「そろそろ休ませて欲しい」との意思表示なのかもしれない。36年間もの間、御苦労様でした。

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