現状否定型商品を作れない日本

BS朝日「激論!クロスファイア」

 

3日放映のBS朝日「激論!クロスファイア」は「民主・自民の経済通に訊く 31年ぶりの貿易赤字・・・『元・輸出立国』の未来は?」。コップの中の嵐ばかりの政治討論は面白くないが、経済動向はやはり気になる。経済さえ何とか持ちこたえていれば、政治家なんかいなくても国は回っていくからだ。むしろ、今のような政治家ならば、いないほうがましだ。政治は今や2流どころか、3流、4流に落ちた。恐ろしいのは1流だったはずの経済も2流に転落、へたすれば3流にさえ落ち込む気配が濃厚になってきたことだ。大いに気になる。

この日の議論の流れは次のようだった。

・昨年の日本の貿易収支が31年ぶりに赤字に連絡したのは超円高と東日本大大震災による輸出激減と原発事故による火力発電用燃料輸入急増のためだ。
・しかし日本企業はマーケットに既にあるモノを作ってお互いに競争しているだけで、しかもオーバースペック。国際的に勝てない。
・このままでは輸出不振は定着し、貿易収支の赤字も恒常化する恐れも出てくる。
・今はまだ海外事業による配当や利子がまだ下支えしているものの、それができなくなれば、経常収支も赤字となる。
・経常収支が赤字になれば、日本国内で赤字国債を購入できなくなり、日本国債の国内流通が限界に達する恐れがある(2020年前後)。
・そうなれば、日本はギリシャ化し、破綻する。
・産業の空洞化阻止、所得収支の維持、財政対策を中心にあらゆる政策を総動員していく。

日本経済の没落の象徴例としてこのところ話題にされるのは家電メーカーの凋落ぶりだ。中でも携帯電話、テレビ、パソコンが突出している、加えて産業のコメといわれる半導体分野でもエルピーダ・メモリ(日立+NEC)が会社更生法の適用を申請し、事実上倒産した。

家電メーカーで大赤字(平成23年度見通し)を出したのはパナソニック(7800億円)、シャープ(2900億円)、ソニー(2200億円)、NEC(1000億円)。いずれもプラズマ・液晶テレビ事業での戦略ミスを指摘されている。数年前まではイケイケドンドンだったのがあっという間の転落ぶりである。液晶テレビを事業の主力に置こうとした戦略が完全に裏目に出た。

家電メーカーに限らず日本製品が世界の市場を席巻したのは圧倒的な技術力に裏打ちされた商品力だった。その先駆者がソニーだった。ブログサイト「陽はまた昇る~日本の復活処方箋」が「失敗学『日本家電メーカーに見る凋落機構』」によると、ソニーが提案した商品にはこんなものがあった。

・1955年にトランジスタラジオ(それまでは真空管ラジオ)
・1965年にカラーテレビ(他社も)
・1975年にβー型VTR(それまではリアルタイムで見るしかなかった)
・1979年にウォークマン(音楽を持ち歩く!ライフスタイルが一変する!)
・1989年にハンディ録画機(動画のすごさ)
・1995年にプレーステーション(立体画像)
・1996年にパソコンVAIO(スティック型メモリーを直接接続できる初のPC)
・1999年に子犬型ペットロボットAIBO

ライフスタイルを変える商品を提案するのがソニーの役割だった。ソニーは牽引車だった。パナソニックや日立、東芝はソニーの追随だった。そのソニーが何も提案できなくなった。「今やマーケットにあるものを作って競争しているのが日本の家電メーカーの姿。新しいものをつくるメーカーがなくなった」(大塚耕平民主党参院議員だったか齋藤健自民党衆院議員だったか忘れた)。

このところ破竹の快進撃を続ける米アップル。ipod、iphone、ipad。これらの製品に画期的な新技術はなく、組み込まれている部品の半分は日本製品。部品を組み合わせるコーディネーションの巧みさがアップルの秘密だ。1つ1つの部品では日本のほうが上でも、その部品を組み合わせる総合戦略でアップルが上回っている。

今でこそ、iphoneを作ったスティーブ・ジョブズは神様のように言われているが、「陽はまた昇る」ブログ氏に言わせれば、ソニーが2000年に発売したpalm OS搭載のPDA(情報端末)「CLIE」(クリエ)はiphoneの先駆け。CLIEに電話機能とタッチパネル機能を付ければIphoneになる。ジョブズは「携帯で持ち歩くパソコンからキーボードとマウスをなくしたかった」と発想し、iphoneを誕生させた。

キーボードもマウスもないPCはPCでないかもしれない。それまでのPCを否定するところから新商品は生まれた。現状否定型商品とも呼ぶべきかもしれない。そういう発想をできるかどうかだ。後になってみれば、「ああそうか」と思えるが、先に発想するのは簡単ではない。

ライフスタイルを変えるだけのインパクトのある商品を開発できるかどうか。ソニーはできなくなって、アップルはそれができた。この違いは圧倒的に大きい。

最近の日本メーカーが陥っているのは過剰品質、過剰機能、高価格。

 

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