国会事故調これまで、そしてこれから

会見する黒川清元国会事故調委員長

会見する黒川清元国会事故調委員長

 

テーマ:国会事故調 これまで、そしてこれから
会見者:東京電力福島原子力発電所事故調査委員会・黒川清元委員長
2013年3月8日@日本記者クラブ

 

●日本は科学技術とエンジニアリングに強いと信頼されていたところに、流石の地震・津波とはいいながらも、あれだけの事故が起こって世界が取材しようとしたが、2-3週間経ってもはっきりしたことが何にも分からない。日本では「確認されていない」ことでも、少し調べれば分かることもあり、世界ではどんどん報道された。国家の信用がメルトダウンした。国際的な委員会を立てない限り、国際的な信用の落下は止まらない。

●国会事故調ができたのは憲政史上初めて。こうした独立した委員会を作って検証を行うことは海外では当たり前。英国では毎年2^3本やっている。政府のチェック機関として働いている。それが民主主義の根幹となっていることを認識していることを物語る。

●国会事故調を通して問われているのは日本の3権分立がきちんと機能しているかどうか。3権分立は国によって制度が少しずつ違っているが、基本的に共通しているのは行政府と立法府と司法とが相互に独立し、牽制し、お互いの力を抑制的に働かせること。それが民主主義の基本だ。それが日本で行われているのか。それを考えるのが大事だ。

●日本は英国の2院制を導入しているが、英国の上院は議員ではない。日本は議員。形を真似しても、中身が伴っていなければ意味がないことを今回の事故は見せたのではないか。どうやって機能させるかは全く別の問題だ。

●厚労省の人はいったん厚労省に入ると一生そこにいるのが当たり前だと思っているが、これは日本だけのことですよ。今でも各役所の事務次官は何年入省だと言っているが、そんなことやっている国はほかにない。つまりガバナンスが効いていないということだ。民間も同じだ。東電に入ったら、ずっとそこにいるもんだと思っている。日本がそう思っているだけの話だ。これが経済成長してきた枠組みだ。

●立法府は何をしているのか。日本の法案の85%は行政府が立案。行政府は横断的に作るわけがないから、自分たちで前の政策をひっくり返すことはあり得ない。世界が変わったら役所も動かすというのは政治の力だ。立法府がする仕事だ。しかし、立法府も変われなくなっている。

●国会事故調は日本および政府が国民からの信頼、世界からの信頼を取り戻すために、事故の当事者(東電)や関係者(政府=行政府)から独立した調査を、国家の3権の1つである国会の下で行うために設置された。

●メディアは「公僕」という言葉を使い続ける必要がある。そうでないと、国民は行政を「お上の人」と思ってしまう。そういう意識を常に醸成していくことが必要だ。民主主義を機能させるように国民の意識を変えることが必要だ。

●できるだけ事実に基づいたことを記述。各委員の意見はできるだけそぎ落としている。判断しないことが大事だ。事故調は国会に対し、報告書に盛り込んだ7提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定し、その進捗状況を国民に公表することを期待する。

●世界中の規制委員会が一番気にしているのは日本の新規制委員会が本当に変われるのかということ。孤立するのではないかと心配している。政治の圧力をどれだけはね除けられるか。国民の支持と世界の規制委員会の支持がどれだけあるかにかかっている。

●国民の意識を変えていくことが機能する民主主義を実現するためには大事。アベノミクスも国民の監視が必要だ。

●独立調査委員会をもっと活用したらどうか。未解明部分の事故原因の究明や事故の収束に向けたプロセス(汚染水処理)、被害の拡大防止などなど。汚染水についても大変な問題だ。廃炉やエネルギー政策。これまでは関係省庁が審議会などを作って対応してきたが、国家の信用を失う結果を招いている。。独立した委員会を使っていくことが必要だ。国権の最高機関である立法府の機能強化が重要だ。

●政治家だダメだからというと国民がその程度だからとよく書かれるが、国民が知らされていない部分もかなりある。

●国会事故調の報告は「事故の直接的影響は津波なのか、地震なのかは分からない」と結論づけた。東電は早々と「津波」とし、「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告で明記。また政府も国際エネルギー機関(IAEA)に提出した事故報告書に同趣旨のことを記した。

●世界で発生するM4以上の地震の40%以上は日本で起こっている。そんな日本にまだ50もの原発がある。しかも海辺だ。がっちりと調べない限り、誰も信用しませんよ。世界も信用しない。それだけ地震大国なのに、それもやっていない。

●国会事故調のメッセージは「福島原発事故は終わっていない」。「入社や入省年次で上り詰める『単線路線のエリート』たちにとって、前例を踏襲すること、組織の利益を守ることは重要な使命。この使命は、国民の命を守ることよりも優先され、世界の安全に対する動向を知りながらも、それらに目を向けず安全対策は先送りされた」。とんでもない国だ。こんな国ありませんよ。

●「『変われなかった』ことで起きてしまった今回の大事故に、日本は今後どう対応し、どう変わっていくのか。これを世界は厳しく注視している」。日本の国家のガバナンスの信用の問題だ。メディア、学者などのそれぞれが考える必要がある。

●「この経験を私たちは無駄にしてはならない。国民の生活を守れなかった政府をはじめ、原子力関係諸機関、社会構造や日本人の『思い込み』(マインドセット)を抜本的に改革し、この国の信頼を立て直す機会は今しかない」。日本人は単線路線エリート社会構造を「それでいいんだ」と思い込んでいる。

●世界はグローバルだ。隠しても分かっちゃう。国民の意識を変える上でメディアも協力してもらいたい。日本の国の統治機構がどうなっているかが問われている。提言を実現していくことが日本の3権分立が機能していることを示すことだ。

●国民が認識しない限り、政治は変わらないですよ。みんなの意見が同じということはあり得ない。それが民主主義の基本だ。民主主義の制度は制度を作ることではなく、機能させることだ。世界の情勢は変わるから、コンスタントに変えていくことが大事。

●世界の同じ研究者仲間にどれだけ信頼されるが重要。原子力規制委員会の若手を世界の原子力委員会の若手と交流させること。ピアレビュー(peer review)=同僚同士による技術的視点に立ったレビュー。

●行政と立法府の間が逆転している。政治家の育て方が違う。形だけを真似してもうまくいかない。

●アベノミクスはゾンビ企業を退場させ、新型企業をどう育てるかにかかっている。エスタブリッシュメントから言うと、最近のニュースター企業の楽天やソフトバンクやローソンなどは「何だ飛び跳ねやがって」という企業だ。ダイナミックに変わらないと経済は成長していかないですよ。いままでの抵抗勢力は一生懸命抵抗するから、政治家がやれるかどうかは票を取れるかどうかだ。それについては国民の意識が一番大事だ。

●報告書を書くとき、中根千枝さん(社会人類学者)の『タテ社会の人間関係』(講談社現代新書、1967年)を読んでみた。科学者になる人、ジャーナリストになる人にはそれぞれの属性がある。属性を社会で発揮するためには場所(組織・・)が必要だが、この属性と場所とが日本人の場合は異常に強くつながっている。こういう国は非常に珍しいと分析されている。なかなか変えられない。科学者は1人1人でモノを言える立場なのか。

●役所は非常に強い。個人は何も責任取らなくていいようになっている。言われたことをやるというのが役所の建前。85%の法律は役所が作っている。これは変な話だ。立法府に能力がないのかもしれない。スタッフがいないのかもしれない。学者もほかの国ならもう少し動ける。ジャーナリストも動ける。そういう社会になってくると、もう少し個人としての、立場立場からの意見を言いやすくなる。これが民主主義の根底にある。こういうメッセージを出しているつもりだ。

●社会構造の問題。同じところをタテに上がっていくのは極めて日本にユニークだ。

●立法府が独立して調査などをやるというのはものすごく大事だ。独立してやる以上、国家秘密にならない限り、すべて公開しているというのが大事。汚染水にしても東電と役所がやっている。変ですよ。できれば国際的な委員会でやったほうがいい。信用がグンと上がる。

●「変わる世界、日本は変われるか」(揮毫)。役所の人たちは10年か15年は猛烈に仕事するが、段々枠組みに入ってくると、前例崩すことをしようとするとOBからのプレッシャーもあって極めて仕事がやりにくくなってくる。もっとモビリティーを上げてやったほうが、適正の能力をもっと活性化できるダイナミックな社会ができる。才能の無駄遣いになっている。人材の無駄使い。やってみて10年経って逃げられなくなっているだけ。可哀想だ。人材の適材適所。権限があって責任が重くなると決断しなければならない。決断して責任を取る覚悟がない。

●Foreign Policy (米ワシントン・ポスト紙の発行する外交雑誌)「TOP100 Global Thinker2012」で63位。「For daring to tell a complacent country that groupthink can kill」として受賞。内向きな国に向かってGroup think can killだと言ったのがすごいと言われること自体が私は嬉しかったですね」。みんな自分でやるべき責任を果たそうとすれば良い社会になりますよ。真面目だしね。

 

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