「国際主義と国家主義の戦い」2017年仏大統領選

 

講演する吉田徹北海道大学教授

 

ゲスト:吉田徹(北海道大学法学研究科教授)
テーマ:フランス大統領選挙「不可能な可能はあるか?」
2017年4月26日@日本記者クラブ

 

・現代社会を作り上げてきたさまざまな要素が変わりつつあり、新しい要素が頭を動かしているのではないか。今回のフランス大統領選挙の位置づけではないか。そういう問題意識で今日話をしていきたい。

・今回の選挙は異例な選挙だ。歴史的な選挙。

・英国のBrexit(Britain+exit=EU離脱)、トランプ米政権の誕生に続いて3度目の正直はあるのか。グローバルな形でのポピュリズムが続くのか、続かないのか。続くとしても欧州大陸に波及をするのか。EUのコアの中のコアにおいて誕生するのかどうか。

・世界を見渡せば、かなりの国で権力空白の状態にある。英国、ドイツ、イタリア、韓国、ブラジル。幸か不幸か日本の政権が安定しているかの如く見える。この権力空白をどう埋めていくのか。今回の仏大統領選で投げかけられた問いだ。

・フランスに国民戦線(Front National=FN)が出てきた背景の1つが欧州統合の危機。ユーロ危機の中で欧州統合が破綻の兆しを見せた。エンストした。ユーロ危機はメルコジ(メルケル+サルコジ)で何とか乗り切ったものの、ポストメルコジの新独仏基軸で対応できるのか。

・エマニュエル・マクロン 24.01%
マリーヌ・ルペン      21.3%
フランソワ・フィヨン    20.01%
ジャン=リュック・メランション20%

・11人の候補者がいたが、半分が反グローバリズム、反EUを訴えていた。明確に親EUを唱えたのはマクロンとフィヨンの2人。

・極右が台頭(過去最高得票率770万票)と保革2大政党候補者(既成政党)の凋落、極左(メランション氏が20%を獲得)の台頭

・こうした動きはフランスだけでなく、多くの先進国で共通の現象。今回初めてゴーリスト党共和派(LR)と社会党の保革2派から決戦投票に進めなかった点で歴史的な選挙だった。現職の大統領が再出馬しなかったのも極めて異例。

・「少し右、少し左」のマクロンは3年ほど前まではフランス人の誰も知らなかった人物ながら、オランド政権で認知され、誰もがフィヨンがスキャンダルで支持率を落とす中、あれよあれよという間に支持率を上げた。

・それに対峙したのが極右ルペン。彼女が何らかな形で決戦投票に進出するのは確実視されていた。いずれにしても右でも左でもない候補者が2人がトップ当選した。

・非常にリベラルでグローバルで個人主義の極と非常に権威主義的でナショナルで共同体優勢な極右。英国や米国でもそうであるが、1つの国において全く別々の世界を生きている人たちが共存し合っていることが共通の課題。

・マクロン主義者とルペン主義者とは何が一番違うか。フランスの未来は明るいかどうかを聞くと、マクロン主義者は7割が「未来は明るい」と答えるの対し、ルペン主義者に同様の質問をすると、7割は「未来は暗い」。1つの国において共存している。2つの世界の争いが今回の大統領選の一番のトピック。

・これまでの「2つのフランス」は背景であり、左と右だったが、それが「リベラルな極とナショナルの極」、「グローバルな極とナショナリズムの極」というポスト工業社会の対立軸に変わった。問題は深刻だ。

・今後の展望について。よほどの番狂わせがない限り、マクロンの当選で決まりだろう。消極的な選択の結果だ。大統領選決戦投票は5月7日。問題はその後の下院選挙(6月11-18日)の不確実性だ。支持構造が強固なルペンと本来の支持ではない有権者を集めなければならないマクロンの戦い。良くてコアビタシオン(保革共存)、あるいはフランス版ハングパーラメント。

・拒否票はあるにしても、既成政党の批判票としてではなく、マリーヌが党首になって以来、「脱悪魔化」(普通の政党化)した。綱引きはあるにしても、地方議会ではトップに立っている。しかし、保革が一致してFNを潰している。その良識が通用しなくなってきている。今の時代のキャッチオール政党はFNだという人もいるくらいだ。既成政党が支持を失ってきている。保革の既成政党に見放された人達がヤマのようにいる。

・移民を規制すべきだというのはFNの専売特許じゃなくなってきている。移民どんどん入れるのではなく、どんな政党も何らかの形で移民規制が必要だと言っている。FNが右傾化したということよりも、社会が右傾化してきた。そこにルペンがいた。

・保革対立は19世紀の工業社会が生んだ対立の構図。資本主義が変容する中でマルクス主義、修整マルクス主義としての社会民主主義が新しい価値体系を生み出せていない。社民というよりもリベラルというところに生存戦略を見出した。

・日本におけるポピュリストはまだ新自由主義型が多い。首長に多い。小泉純一郎がその代表格だ。橋下徹など改革志向のポピュリスト。今の西欧のポピュリストは復古主義的、戦後実現した豊かで同質的な社会を維持しよう。違う。

・日本でAIと言えば万歳だが、欧州では雇用を奪うからやめとけ。距離感の違い。政治の在り方を大きく既定しているのではないか。

・ポピュリズムは代表される者と代表する者のずれを修整する。代表民主主義である限り、必ず出てくる。民主義の歴史と同じくらいの歴史がある。「劇薬」でもって修整しようとする力がポピュリズムだ。ところが政権を取ったのがトランプ問題。ポピュリズムが政権を取ったときの特徴は既成政党とつながるときがある。方向性が崩れるときがある。トランプが共和党の予備選に出ていなかったら、かつて旋風を起こしたロス・ペロー氏(海軍、IBMを経てエレクトロニック・データ・システムズ=EDSを創業。それをGEに24億ドルで売却し、一躍5指に入る大富豪になった。1992年の大統領選挙に立候補し、惜敗した)のような、ちょっと頭のおかしいおじさんで終わっていた。

・英国でキャメロン首相が国民投票を行い、民意をもてあそんだ。そしてひっくり返された。フランスではルペンの防波堤は崩さないでおこうというコンセンサスがあった。自分の党を右傾化することによってポピュリズムを押さえ込もうとした。当面はこの防波堤は瓦解しない。

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