『孤狼の血』
作品名:『孤狼の血』
監督:白石和彌
キャスト:大上章吾(役所広司)
日岡秀一(松坂桃李)
五十子正平(石橋蓮司)
一之瀬守孝(江口洋介)
2019年3月20日@飯田橋ギンレイホール
広島県警呉原東署刑事二課巡査部長。暴力捜査係主任。破天荒な捜査で警察内部、暴力団から一目置かれている大上章吾(おおがみ・しょうご、通称ガミさん)役を務めた役所広司が出演を快諾した理由について、パンフレットの中で内田正樹氏のインタビューにこう答えている。
「かつての日本映画には『孤狼の血』のような映画がたくさんありました。でも、今はこういう映画が本当に少なくなった。だから、今こそこんな映画があったら、新鮮で面白いかもしれない。そんな気持ちが決定打となりました。監督の想いに共感し、とにかく熱く、暑苦しいほどの大上を演じようと心がけました」
『孤狼の血』は東映が放つ久しぶりのアウトロー(無頼)映画だ。映画史研究家の春日太一氏によると、1950年代は片岡千恵蔵、市川右太衞門、中村錦之助、大川橋蔵によるヒーロー時代劇を量産。60年代は鶴田浩二、高倉健、藤純子らによる着流しヤクザの活躍を描いた任侠映画がヒットした。
また、70年代は深作欣二監督の『仁義なき戦い』が大ヒット。任侠映画で描かれたストイックさを捨て、己の欲望と野心のために暴力に走るヤクザたちの実話に基づきながら生々しい実録路線が始まった。菅原文太、千葉真一、松方弘樹、渡瀬恒彦らが台頭した。
80年代は映画の主要な観客層は女性と若者が占め、映画の内容は文芸色の強いものになり、90年代には主要な活躍の場はVシネマ(東映が1989年より制作・発売を開始した劇場公開を前提としないレンタルビデオ専用の映画の総称)へ移る。世の中全体がアウトローに厳しい目を向けるようになってもいた。
大上は警察の人間だ。警察側の価値観に軸足を置いた映画だ。純然たるアウトロー映画ではないものの、しばらく断絶していた流れを今に引き寄せたようである。