現行の保健所体制から脱皮し「Go To PCR! いつでもどこでも何度でも」と主張する保坂展人・世田谷区長

 

世田谷区長の保坂展人氏

 

ゲスト:保坂展人(ほさか・のぶと)世田谷区長
テーマ:自治体の奮闘
2020年8月4日@日本記者クラブ

 

■PCR検査能力、増強へ

 

東京都世田谷区の保坂展人区長は4日、日本記者クラブで、新型コロナ対策でPCR検査能力を増強する方針を表明した。区長会などで提案し、他の自治体のモデルにしたいと答えた。衆院議員3期(比例代表)。2011年4月27日から世田谷区長。現在3期目。

・2011年3月11日。東日本大震災が起こった。モニタリングポストの計測は公約だった。「就任直後に計測する。体制作ってくれ」と指示したが、「国の仕事でないでしょうか」と言われた。しかし公約であることから始めた。空間放射線量やプールの中、学校給食の食材などだが、振り返って見ると、その後ほとんどの自治体で始めていた。東京電力の賠償の費用で賄うことができた。東京都や国の体制を待っていては有り得なかった。

・健康上の危機に襲われていることは紛れもない事実で、PCR検査をできるだけ増やしていくことで対応可能だと考える。

・東京都23区の人口は約970万人。世田谷区はその約10分の1の92万人。感染者数の推移を見ると、東京都とほぼ同じ傾向を示している。区の感染者数は994人(7月31日現在累計)。入院112人、宿泊療養中(ホテル)76人、自宅療養中59人、退院等729人、死亡18人。

・第1波の時は30代~50代の働く世代が多かったが、7月の第2波では20代、30代が急増している。7月以降は感染が急拡大し、区外の接待を伴う飲食店で若者が感染し、家庭内感染や職場内での感染が増加している。

・区内の高齢者福祉施設、障害者福祉施設、児童福祉施設など21件の職場内感染が起こっている。クラスターと呼ばれるほど広がらなかったものも多い、区内でかなり特徴的なこと。

 

■まずは一ケタ拡大を

 

・医療現場の状況を把握するため、4月7日に新型コロナウイルス対策に伴う医療機関情報連絡会を開催した。6月1日、7月29日の合計3回開いた。その間、電話でも逐次開催した。院内感染を起こさせないことが重要で、N95マスク、防護服等の物品の不足に関して意見が出た。

・世田谷区新型コロナウイルス感染症対策本部の有識者会議(東京大学先端科学技術研究センター児玉龍彦氏や公益財団東京都医学総合研究所感染制御プロジェクト特任研究員の小原道法氏、東京都立大学法学部教授の大杉覚氏、大妻女子大学家政学部准教授の加藤悦雄氏、世田谷区医師会会長の窪田美幸氏、玉川医師会会長の吉本一哉氏)で7月27日意見交換を行った。そこでPCR検査数の拡大について意見が出た。

 

現在の世田谷区のPCR検査体制(区の資料)

PCR(polymease chain reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)検査は広がっている。5月1日に保険診療が開始され、同13日からはドライブスルー検査も始まった。5月、6月とそれが続き、7月からは検査ニーズが急増している。

・ポリメラーゼとはDNAやRNAというウイルスの遺伝子を構成する一部で、患者の検体を特殊な液体につけることで、新型コロナウイルスがいれば、その中にある特有の一部分を切り取り増幅させることで新型コロナウイルスがいるかどうかが判定できる検査だ。

・現在の検査能力は360件。これを600件へと倍増させたい。児玉名誉教授からは7月27日の意見交換会で「社会的検査としてのPCR検査体制をこれまでより1ケタ増やす体制を整備したらどうか。そういう時期に来てますよ」と提案された。直後より区としての検討を開始、なるべく早く検討を終了したい。

・先週の検査件数は363件(1日当たり)→603件へ倍増させたい。

・また区内の高齢者施設や障害者施設を支援するため抗体検査の実施も行っている。これは新型コロナウイルスに感染していたかどうかを調べる検査。新型コロナに感染すると形成されるタンパク質が体内にあるかどうかを調べる。

 

■コロナ治療に当たったが故に収入が入らない病院を財政的に支援する

 

・病院の一番喫緊の問題は経営上の再建。どの病院も6億円、4億円、3億円、2億円などと巨額の赤字を計上している。コロナ治療に当たったがために病院として入るべき収入が入ってこない。国や都の支援は足りない。区でも2次補正で3億円支援しているが、とても足りないのが現状だ。財政的に支援することが重要だ。

・社会的福祉施設等への支援も必要で、感染症アドバイザーの派遣を実施している。

・本田劇場の俳優に動画を作ってもらって住宅確保給付金などの経済対策も講じている。7月17日現在約5000件。

・新型コロナウイルスをともに乗り越える寄付金も4月30日から募集中だ。8月3日現在、853件、3000万円を超えている。寄付金のうち1000万円を感染防止対策に必要な防護用品の購入・配布に活用している。

 

Go To PCR!(保坂氏の揮毫)

 

■「いつでも、どこでも、何度でもPCR検査」

 

・世界を襲う新型コロナウイルス対策を実行する上で、成功事例を参考にしようとすれば、「PCR検査を制限する」という話にはならないんじゃないか。誰もがセンターを増やしたほうがいいと言いながら、現場を知っているものとしては「少しは増やすことはできるとしても、1ケタ増やすことは絶対にできない」。

・これは明治以来の感染症の法体系で何とかしようとしている。旧来の法体系の中で、つまり症状があって疑わしい人を検査するのは当たり前だが、今コロナの流行の中で問われているのは「症状がなくて、本人にもそれと気づいていない人」。これへの対応ができていない。

・コロナウイルスの側に法や制度を合わせるしかない。その決断が国はなかなかできない。

・財源はどうやって捻出するのか。積み上がっているのか

・現在の検査は検体を1つ1つ検査するが、まとめた検査する「プール方式」の導入を考えている。唾液などの検体を1人から複数採取し、検体の一部を数人分混ぜてまとめて検査する。1検体当たり数万円の費用がかかるが、プール方式でまとめて検査すると費用や検査時間が減る。

・ウイルスは極めてしたたかだ。だからPCR検査のハードルを下げる必要がある。もしくは無くしていく。米ニューヨークでやっているような「いつでも、どこでも、何度でも」を最終的には目指していくべきだ。

・300人やっている検査がオーバーフローし始めた。これを倍加する。

・国全体、社会全体が最優先課題でやるべき問題と考えている。安心して外を歩くことができて、働くことができて日常を送れる。感染したらすぐに検査をして治療を行い社会に復帰する社会にしていくことが一番だ。

・日本ではなかなか増えない。難しいということは散々聞く。それを突破して一ケタ増やしましょうという踏ん切りが必要だ。国はGo To Travelは中止してGo To PCRに転換する。都も区市町村との連携予算を拡張してもらいたい。

・できる体制を作り、走り出しながら国や都にも働きかけ、民間の事業者の同意も得たい。世界中でできて日本だけができないのが今の現状だ。そこはできないわけがない。

 

■「はっきり増やす」意思があればできる

 

・第1波が終わって、第2波が来ると言われて3カ月あった。PCR検査は少しは増えたが、格段に増えることはなかった。いまの感染症の法制度のスキームではあり得ない話だ。法制度の側からコロナを見ている。コロナの特性から法制度を変えようとはなっていない。

・保健所がフル回転している。寝る暇がない。それをもっともっとというつもりはない。保健所は保健所でしかできない仕事をやってもらう。これは意思だ。「はっきり増やすぞ」「一ケタ行くぞ」という意思があれば、実現する。そのことを言わない限り待っていても絶対に増えない。これは確信を持てた。児玉先生からこの提案があったときに「やろう」と考えた。

・絶対に増やせない法体系になっている。これは何か?どこがいけないのか。⇒保健所がすべてを背負う形で検査を行う。300件。これに医師会を加えていく。検査の対象が5月末に「濃厚接触者」にまで拡大している。これまでは感染の疑いのある人、その周辺にいる人何人かを健康観察していたが、「濃厚接触者」にまで拡大した。それで寝る暇も無くなってぎりぎりの状態でやっているのが300件だ。

・このまま工夫を重ねてやっていくつもりだが、諸外国で行われているような検査のハードルを下げるためには「脱皮」をしなくてはならない。実例が必要だ。積み上げ型からは生まれてこない。

・本音のところでPCR検査をやりたくない。厚労省の方針の中に「検査を増やすな」という考え方がどうもあったようだ。そうであるが故にわざわざハードルを高くした。拡大しようという政策方針を持っていない。その中で国や関係機関が制度を整えられるわけがない。

・医師会がpCRセンターを作ったのも「見てはいられない」ということで追随したのが現状。国民の声は「ハードルを上げないでくれ」という声が圧倒的だと思う。その声が政治の中ではっきり反映されない。諦める。失望する。健康危機の事態に突入しようとしている。

・批判ではない。実現することを目指していく。世田谷区だけが実現することはあり得ない。連鎖していくしかない。

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