次期衆院選は「自民党に入れたくない」空気が濃い都議選の二の舞か=元自民党本部事務局長

 

自民党元選挙対策局長

 

ゲスト:久米晃・元自民党本部事務局長
テーマ:都議選から読む総選挙
2021年7月20日@日本記者クラブ

 

自民党職員として長く選挙対策を支えてきた久米晃氏が都議選結果を分析するとともに、今年10月21日で任期満了を迎える衆院選を展望した。同氏は1980年に自民党職員となって以降、選挙畑を歩んだ。各地の事情を踏まえた選挙分析には定評がある。2002年から16年まで選対部長を務め、11年から党本部事務局長を兼務した。19年に退職し、現在党の特別参与。

7月4日に行われた東京都議会選挙は自民党が33議席で第1党の座を取り戻したものの、公明党と併せても過半数に届かなかった。一方、都民ファーストは議席を減らし31議席で第2党となっている。この結果が何を意味するのか。世論調査では菅内閣の支持率は最低を記録するなど下がり続けている。(司会・川辺恵子日本記者クラブ企画委員)

 

■学生時代は学生運動に飲めり込んでいた

 

・私は高校生活3年間は学生運動三昧で受かる大学もなく浪人した。浪人中も学生運動をしていた。どこも受かる大学などなかったが、縁があって地元の愛知県の大学に入れた。1年には停学処分をくらって休学。昭和49年8月に三菱重工爆破事件をきっかけに東京に出てきた。

・東京に出てきても学生運動の専従をしていた。昭和54年まで。10年間、学生運動だけの青春を送っていた。いろいろ縁があって昭和54年に自民党本部にアルバイトで入り55年に職員に採用された。配属は選挙対策委員会で定年まで30数年間は選挙対策しかやってこなかった。

・選挙だけに限って言えば、昭和48年の名古屋市長選挙が最初の関わり合いだった。大学入る前だったが、江崎真澄氏の市長選挙などを経験し、昭和49年の愛知県地方区の選挙も手伝った。選挙そのものについては50年近くやっている。

・なぜこういう話をするかというと、学生運動時代をやっていた高校1年からの思考、思想が自分のベースになっているから。自民党に入っても、必ずしも自民党的な考えではなかった。自分個人の意見として話をしている。

 

■都議選は自民党への不平不満の表れ

 

・4年前の都議選は自民党が大惨敗した。しかし衆議院選挙は小池都知事のおかげで自民党は命拾いした。都議選は国政選挙の前哨戦であることに気が付いた。

・都議選の結果が反映されていないのは4年前だけ。国政で大した争点はなかった。都議選の関心は低くて投票率は低い。投票率が低いと自民党は国政で圧勝している。投票率が40%台だと自民党が勝っていた。50%を越えると自民党は負けていた。

・今回の都議選は投票率、敗北する都民ファーストの票がどう割り当てられるかの2点が関心事だった。個人的には公明党がどのくらい票を取るのかに関心を持っていた。

・終わると投票率は42.39%にもかかわらず自民党は実質大敗北した。都民ファーストは31。事前の予測とかなり違った。5月末に行われた読売新聞の世論調査では自民党支持率は30%、都民ファーストの支持率は11%だった。ところが6月下旬調査では自民党22%、都民ファーストは18%になっていた。

・ワクチン接種が6月22日ごろ急きょキャンセルされ、小池さんも入院した。この2つの理由が世論調査に反映されたと私は思っている。影響を受けたのは自民党だけ。

・自民党の支持者が33%いるにもかかわらず、自民党に投票した人はたったの57%しかいなかった。都民ファーストに流れた人が19%もいた。他の公明、共産、立憲は自党のほぼ85%~90%を固めている。ほとんど小池さんに同情する票は出てこなかった。自民党だけが影響を受けていた。投票率も上がらなかった。

・都議選に行こうと思っていた自民党の多くのファンが菅さんに対する期待が打ち砕かれて、自民党内の怒りが都民ファーストに流れてしまったのではないか。私はこう理解している。

・無党派層が大きく動いたわけでもない。自民党支持者の自民党に対する不平不満の表れがこの都議選だったのではないか、と私は思っている。

・選挙は自民党支持率が急落し野党の支持率と逆転してそれで自民党が負けることはほとんどない。自民党支持者が自民党に入れないときが選挙に勝てないときだ。いつもほとんどそうだ。

・自民党支持者というのは自民党に対する支持ではなくて保守的無党派層ではないか。自民党支持者だから自民党に入れるというのは大間違いで、自民党の候補者は自民党支持者にいかに理解を求めて話をすることが最大の選挙対策だ。笛や太鼓を鳴らして無党派対策と言っても無党派が自民党にくるはずもない。自民党の支持者をどうやって固めるかが最大の無党派対策だと思っている。

・都議選もその結果だった。衆議院選を戦うには自民党候補者が自分の本当に周りにいる人たちに理解してもらうことが最大の無党派対策、選挙対策だと思っている。

・最近、自民党の先生から「反応が悪い」という電話がかかってくる。それをどう挽回したらいいのか。こうしたことをきちんと説明しないとなかなかこの苦境をひっくり返すのは大変だと都議選の結果から感じた。

 

■今や自民党の公認・推薦は「金看板」から「ブリキの看板」に

 

・昨年秋には富山県知事選挙で自民党候補者が敗北。それ以降、各地で自民党推薦候補者の負けが込んできている。山形県知事選挙、岐阜県知事選挙は自民党が分裂選挙になった。千葉県では100万票の差を付けられて負けた。北海道、長野、広島などでも敗北した。静岡県知事選挙、兵庫県知事選挙・・・。これからは横浜の市長選挙がある。

・自民党の推薦、公認がいまや「金看板」ではなくて「ブリキの看板」になっているのではないか。社会現象かもしれないが、組織の言うことを聞かない。組織の統制力、統率力が落ちてきている。その表れではないかと私は思っている。

・警察官が交番で破廉恥行為したとか、教員が自分の教え子に手を付けたり、常識では考えられないことが起こっている。自民党も推薦を出しただけ、公認を出すだけで終わっている。なぜこういうことになっているのか。

・自民党の中に組織をまとめるリーダーがいなくなっている。地方ボスがいなくなっている。県会議員の中でも県会議員をまとめるボスがいなくなっている。国会議員が県会議員に指示をしたりできなくなっている。

・私のよく知っている人が「久米さん、あんた何言っているの?そうじゃないでしょう」という。「今の自民党の執行部が組織の規律、統制を破るようなことをしてて、下の人が言うこと聞くわけないじゃないの」(私の知り合いの意見)

・そういわれればそうかな。「小選挙区で戦って、他の党の人と戦った人が自民党に入りたいといったからと言って自民党に入れて、これまでの公認候補者と公認を争う事態が起こっている。そういうことやっているのに組織の言うこと聞くわけないじゃないか」と私の友人は言う。

・上司が言っても部下は言うことを聞かない。自民党の執行部が言っても他の人は言うことを聞かない。県会議員のボスが言っても言うことを聞かない。横浜市長選挙の立候補者は9人。ほとんど組織としての力がなくなっている。兵庫県でもそうですよね。県会議員団が決めた候補者じゃない人が推薦になった。

・「こういうような体制で総選挙、自民党さん、戦えるんですか」。こういう疑問をぶつけている友人がいます。私はそれも一理あるのかなと思ったりもします。

 

■「自民党に入れたい」か「入れたくない」か

 

・菅義偉内閣の最大の公約は「新型コロナの終息」。これが達成されないうちは解散はない。

・国会議員は「夢と希望」を売ってなんぼの商売ですから。まず自分の周りの人たちに「新しい夢や希望や展望」を訴えて票をもらうことをもう少し真剣に考えてもらったほうがいいのではないか。

・国会議員は有権者に信用を失ったら投票しない。きちんと約束を守って実行してほしい。これが選挙に勝つ第Ⅰ条件だ。

・都議選のときの信用を失った状態が解消されないと次の衆院選でも同じような結果が出てくるのではないかと私は危惧している。やると言ったことを必ずやる。やれないことは「やれない」とはっきり言うべきだ。

・「ワクチン接種」を10月、11月までに終わらせること。感染者を押さえ込むことだ。そのためにはある程度の期間は必要だ。1人でも多くの人にきちっと説明する。

・公明党の山口代表が総裁選挙をやってから解散総選挙をやったほうがいいのではないかと言っていたが、それも1つの方法かもしれない。自民党の中できちっとした候補者が出てきて議論して総裁選挙を盛り上げてその勢いで総選挙という方法があるのかもしれない。

・日本で初めてコロナの死者が出てから我慢に我慢を重ねて1年半以上経ってしまった。これをなるべく早く解消する。これだけ自粛自粛と言われるといい加減にしてほしいな。正直思う。飲食店の不平不満をどう抑えるのか。半端なことではない。

・衆議院選挙の予測記事がちらほらと出始めている。日本の選挙は自民党対立憲、自民党対民主ではなくて、自民党に入れたいか入れたくないかが基本になっている。

・立憲がだらしないから、立憲の支持率が低いから自民党は安泰ではなくて、自民党の支持率が落ちてきたとき、自民党の支持者が自民党に入れたくないときにどういう事態が起こるのかを想定して選挙対策を立てた方がいいと思う。

・私が共産党の幹部だったら、かなりの程度で立憲に譲る。共産党が小選挙区で当選する可能性はほとんどない。候補者を見送って反自民の票を一カ所に集める方法を取る。

・「選挙が終わったらどうするか」をもっと分かりやすくきちんと説明することが今一番求められていることではないか。

 

 

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