【インフレ】猛烈な物価高の直撃を受ける日本列島=中国経済の回復はリスク要因に

 

13日初めて開花した梅もインフレの猛風に耐えているのか

 

■一気にやってきたインフレ

 

世界は猛烈なインフレ台風の直撃を受けている。バブルが弾けて1990年代初めからデフレ経済に突入していたが、デフレからの脱却に30年もかかってしまった。その間、マイナス金利にあえぎプラス圏に浮上してこなかった。

低金利は借りる側にとっては嬉しい話。お陰で長期で借りた住宅ローンも上がることなく、無事返済も終わった。借りた方は感謝しても仕切れないが、貸す側は辛かっただろう。世の中はゼロサムである。あちらが立てば、こちらが立たない。

しかしあまりにデフレが長かったために、すっかりデフレになじんでしまった。急にインフレがやってきたと言われてもマインドはそう簡単に変わらない。生活態度も改まらない。変わったとしてもじわじわと変わるものである。

日本はエネルギーや食料の大半を海外から輸入している。その海外でインフレが先行し、それが日本への輸出物価に反映するのだ。インフレが海外から輸出されてくるのだ。

ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月以降、特にインフレの顕在化が目立ち始めた。特にエネルギーや小麦などの輸入物価の高騰が激しい。

 

2022年12月の消費者物価指数(生鮮食品を除いた指数)出所:NHK

 

2022年12月の消費者物価指数(生鮮食品を除いた食料)出所:NHK

 

■食用油は33.6%、ポテトチップス18%の値上がり

 

昨年12月の消費者物価指数は天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が1年前より4.0%上昇した。これは第2次石油ショック(1978年10月~82年4月)の影響が続いていた1981年12月以来、41年ぶりの水準だ。

主な要因は食料品の相次ぐ値上げによるもので、「生鮮食品を除く食料」は1年前より7.4%」上昇した。1976年8月以来、46年4月ぶりの水準だ。

物価は上がらないものだと思い込んでいた者にとってはびっくらポンである。驚いたから下がるわけでもない。上がるだけである。

NHKによると、具体的な値上げ幅は以下の通り。

▼食料品
▽食用油33.6%
▽ポテトチップス18%
▽ハンバーガー(外食)17.9%
▽炭酸飲料15.9%
▽あんぱん14.1%
▽牛乳9.9%
▽豚肉(国産)9.4%
▽卵7.8%
▼エネルギー
▷ガス代23.3%
▷電気代21.3%

 

■1974年の日本経済は初のマイナス成長

 

石油ショックは70年代に2度起きており、実際には1973年(昭和48年)10月に起きた第1次石油ショック(73年10月~74年8月)の方が影響が大きかった。

第4次中東戦争勃発がきっかけで、石油輸出国機構(OPEC)が原油価格を約4倍と大幅に引き上げたためだ。1973年10月は私が横浜からハバロフスク号に乗って初めて旧ソ連経由でヨーロッパに出た年だったためにしっかり覚えている。

甲板で戦争勃発の報を聞いたことを覚えている。買い占め・売り惜しみもあってスーパーの店頭からトイレットペーパーが消えたことが大ニュースとして駆け巡った。そんなことも知らないままのんきに異国を旅していた。

1974年のインフレ率は20.9%で同年度の日本経済は戦後初めてマイナス成長に沈んだ。高度経済成長期もこれで終わった。

 

■値上げが値上げを呼ぶスパイラル現象に

 

値上がりはこれで終わりではない。何度も上がる。帝国データバンクによると、昨年1月から値上げされたのは2万品目を超えた。平均値上げ率は14%に達している。

とりわけ昨年10月の値上げにはウクライナ情勢が大きく影響しており、さらにドル高・円安の影響も加わった。約6700品目と驚異的な値上げラッシュとなった。

帝国データバンクによると、主要食品メーカーが2月に予定する値上げ品目は約4000品目に上る。3~4月にも約2000品目が値上げを予定している。顧客離れを恐れ値上げに慎重だった日本企業の姿勢にも変化が生まれ、値上げへのハードルが低くなっている可能性があるという。

東京電力ホールディングス(HD)は1月23日、家庭の過半が契約する規制料金の引き上げを経済産業省に申請した。申請した値上げ幅は平均29%で、6月からの適用を目指している。昨年11月以降、東北電力など大手5社が3~4割前後の値上げを申請しており、東電は6社目。

東電が規制料金の値上げを申請するのは東日本大震災直後の12年以来、11年ぶりだ。エネルギー価格の値上げは他の商品への値上げにも響く。値上げが値上げを呼ぶスパイラル現象が既に始まっている。

 

白井さゆり慶大教授

 

■世界を襲ったインフレショック、金利ショック、地政学リスク

 

日本が太平洋戦争のために投じた戦費は当時のGDPの約9倍。大量の国債発行で賄ったため通貨価値は暴落。空襲で生産設備も破壊され生産能力も失った。戦後日本はハイパーインフレで始まった。

その後はデフレとインフレを繰り返し、1980年代後半には土地高騰によるバブルを経験。90年にはバブルも弾けデフレに陥った。しかもこのデフレが2022年頃まで約30年間も続いた。

白井さゆり慶応義塾大学教授は1月11日、日本記者クラブで講演し、2022年に世界がインフレショック、金利ショック、地政学リスクの3つの不安定化要因に襲われたと指摘した。

同教授はインフレ率の上昇は2021年から始まったとし、①コロナ感染症危機からの景気回復②グローバルなサプライチェーンが不安定化し,解消に時間がかかった③ロシアのウクライナ侵攻があり、エネルギーを中心に価格が高騰したーことが理由だと述べた。

 

■半導体の供給力強化狙ったCHIPS法成立

 

インフレ率は予想以上の速度で上昇し各国中央銀行は急速な利上げを余儀なくされた。最初に影響が出たのが住宅市場で軟調になっている。今年もこの状態が続くと白井教授は予想する。

金利ショックにより、株式、債券、不動産の資産価格も下落を引き起こしたのが特徴だ。

加えて地政学リスクがロシアのウクライナ侵攻によって一段と高まった。西側による対ロシア制裁と対中輸出規制も強化されつつある。

米国ではCHIPS法(CHIPS and Science Act)が昨年8月に成立した。米半導体業界の供給能力拡大とシェア回復を狙ったもので、今後5年間で半導体メーカーに527億ドル(約7兆1000億円)を提供する。

グローバルサプライチェーンについてはかなり改善していると指摘。物流が滞ることによってインフレ圧力が高まる状況はかなり解消してきているとも白井氏は述べた。

 

■中国がリスク要因

 

気になるのは中国経済の動向だ。中国ではコロナ感染症が2020年に発生し、世界は成長率鈍化に入った。ただ中国は感染症が早く収束したこともあってプラス成長を維持。21年の中国は8%成長を達成した。

しかしゼロコロナ対策や不動産市場の低迷もあって22年は3%台に失速する見通しだ。「ゼロコロナ」政策の長期化で中国の経済活動は19年の6%から22年は3%まで鈍化したが、ゼロコロナ政策をやめた結果、23年は5%かそれ以上に回復するかもしれないとの見方が出ている一方、あんまり期待するのも問題だとの意見もある。

中国経済が回復すれば再び資源価格が上がるリスクも出てくる。中国経済の回復は世界経済には追い風でも、インフレの観点ではリスクが大きいからだ。

白井教授は中国の景気について、1-3月までは減速気味。4-6月から消費がリバウンドし4%後半の成長率を達成するのではないかとの見通しを示している。

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