『風立ちぬ』

The Wind Rises

The Wind Rises

 

作品名:『風立ちぬ』
宮崎駿監督作品
2013年日本映画スタジオジブリ

宮崎駿作品を映画館で見たのは『ハウルの動く城』以来2作目。世間が騒ぐほど関心もなかった。どうせアニメだとも思っていた。『風立ちぬ』は7月公開だったが、見るつもりもなかった。

それなのに10月になって見たのはあまりに話題になるからという消極的理由からだった。しかし、見たものの、やはりクライマックスもなく、物語の目的もない作品で、感動も感激も特に感じなかった。

ただ実写のように鮮明に描かれていたこと(特に下宿の部屋)にはびっくりしたし、悲しい場面では涙が出て来たことは認めたい。

宮崎駿氏によれば、「大正時代、田舎に育ったひとりの少年が飛行機の設計者になろうと決意する。美しい風のような飛行機を造りたいと夢見る。やがて少年は東京の大学に進み、大軍需産業のエリート技師となって才能を開花させ、ついに航空史にのこる美しい機体を造りあげるに至る。三菱A6M1、後の海軍零式艦上戦闘機いわゆるゼロ戦である。1940年から3年間、ゼロ戦は世界に傑出した戦闘機であった」(2011年1月10日「企画書」)。この物語はゼロ戦の設計者・堀越二郎を主人公としている。

一方、「この作品の題名『風立ちぬ』は堀辰雄の同名の小説に由来する。この映画は実在した堀越二郎と同時代に生きた文学者堀辰雄をごちゃまぜにして、ひとりの主人公”二郎”に仕立てている。後に神話と化したゼロ戦の誕生をたて糸に、青年技師二郎と美しい薄幸の少女菜穂子との出会い別れを横糸に、カプローニおじさんが時空を超えた彩りをそえて、完全なフィクションとして1930年代の青春を描く、異色の作品である」(同)。

ゼロ戦は真珠湾攻撃から戦争末期に特攻機として存在し、それに乗った若者の命をすべて奪った飛行機。そんな飛行機が美しいはずがないのだが、主人公は黙々とゼロ戦を造る。主人公から反戦メッセージは出てこない。何も言わないものの、戦争賛美の声は聞こえない。無臭と言えるかもしれない。

作品が描くのは飛行機をめぐる美しい夢だ。飛行機に夢中になる少年の、青年の夢だ。夢の世界だからこそ美しい。

 

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