M8

高嶋哲夫『M8』(エムエイト、集英社文庫)を読んだ。6月7日(土)夕、兵庫県養父市で開催された神戸新聞のシンポジウム終了後、神戸に戻ろうとJR山陰線八鹿駅の売店でビールと焼きちくわを買った際、そばに並べられた文庫本に目をやると、視線が合った。

 500ページ以上の分量だったし、この手の本を衝動買いすることはあまりなかったので、最初は無視したが、特急「はまかぜ6号」を待つ時間が結構あり、手持ちぶささで売店を出たり入ったりしているうちに、つい手が伸びてしまった。こんなものは出会いである。出会い頭の事故みたいなものだ。出会ってしまった以上、仕方ない。

 1週間足らずのうちに読んでしまった。M8。つまり、マグニチュード8規模の直下型地震が東京で起きた場合どうなるかを最新研究に基づいてシミュレーションした小説である。阪神・淡路大震災の被災地・神戸にいることもあって地震への関心は強い。

 28歳の若き研究者、瀬戸口誠治のシミュレーションはM8級の直下型地震が東京を襲うと予言したが、それを信じる者は少ない。最終的に地震予知の権威で神戸大学元教授、遠山雄次の力もあって都知事に「演習・警戒宣言」を発動させた結果、東京の被害はかなり軽減された。それでも1万9000人以上の命が奪われた。

 研究者の瀬戸口誠治と瀬戸口の彼女で衆院議員の秘書、河本亜紀子、それに防災のために自衛隊に入った松浦真一郎はみな県立神戸高校の同級生。大震災の経験が彼らの人生を決定付けた。

 被災者と非被災者の感覚の違いは大きい。京都大学防災研究所巨大災害研究センター長・教授の河田恵昭氏が巻末の解説でいみじくも書いている。「阪神・淡路大震災から12年以上経った現在、被災地では経験の風化が急速に進んでいる」

 「その証拠に、防災を目的とした各種の催し物に被災地とその周辺では人が集まらない状態が続いており、ひどくなる一方である。肉親や大事な人を亡くすなど、心に傷を受けた被災者だけが浮き上がり、どんどん孤立している」。

 

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