火垂るの墓
米軍による日本本土空襲は太平洋戦争の開戦4ヵ月後の昭和17年(1942)4月18日が最初。東京市、川崎市、横須賀市、名古屋市、四日市市、神戸市に焼夷弾が投下され、6都市で50人が死亡した。特定の軍需施設を狙った精密爆撃作戦だったが、日本上空の強風などの影響で思うような成果が得られなかった結果、焼夷弾を使って市街地全域を焼き尽くす無差別爆撃に切り替えられた。
作品の舞台になっている神戸市への本格的な空襲は昭和20年(1945)の2月4日。112機のB29爆撃機が午後2時から4時にかけて高性能爆弾50発と焼夷弾3700発を投下、神戸川崎造船所、三菱造船所、1800戸の民家を破壊し、死者6人を出した。東京大空襲(3月10日)を見据えたテスト空襲だったという。
神戸への空襲は128回に及び、神戸市内では約8800人が命を落とした。特に激しかった3月17日、5月11日、6月5日のものを「神戸大空襲」と呼んでいる。
中学3年の野坂少年は6月5日の大空襲を体験し、家を失い、母を失い、1歳4ヵ月の妹を連れて逃げた。そして妹を栄養失調で亡くした。小説では4歳くらいの幼女に設定。幼女の紡ぐ言葉に意味を持たせた。
正直言って、「火垂る」を「ほたる」と読めなかった。2人で住み始めた防空壕のそばの池の水辺に舞い飛ぶ無数の蛍・・・。防空壕の中でも光を放ちながら舞い飛ぶ蛍。その蛍は死に、その死骸を小さな穴に埋め、木切れに1つずつ名前を書く。墓標のように。
妹の節子は栄養失調に・・・。蛍の墓の一角の一番高いところが「節子之墓」。蛍の命は短くて、儚い。
清太・・・吉武怜朗(よしたけ・れお) 1991年生まれ
節子・・・畠山彩奈(はたけやま・りな) 2002年生まれ