黒木亮『エネルギー』

 黒木亮『エネルギー』(上下、日経BP社)を読んだ。「エネルギー・ビジネスの最前線で闘う男たちの姿を、空前のスケールと精緻なディテールで綴る」とセクシーな帯につられて買ったが、読み終えてみると、看板倒れ。内容が拡散し、物語が深まらない失敗作としか思えない。

 国家プロジェクトの「サハリンB」のファイナンスを担当する商社マン、イラン・イラクビジネスの執念を燃やす同じく商社役員、通産省の官僚、エネルギー・デリバティブのトレーダー、さらにはこれに環境NGOを絡ませて、それなりの道具立てを用意した野心作ではある。

 しかし、プロジェクトのすさまじいまでの政治性に比べ、そのプロジェクトに取り組む人間の力量があまりにも貧弱で、上っ面との印象を拭えない。サハリン、ロンドン、シンガポール、東京、テヘラン、北京と世界各地を移動するが、観光旅行的な説明が満載で、それを読むたびに興味が減退した。

 上下で700ページ以上の紙数を費やしておきながら、浅い読後感しか残さないのにはひどく驚いた。意欲は買うが、どうせ書くなら、もっともっと深堀したものにすべきだったのではないか。

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