『真夜中の遠い彼方』


 
 佐々木譲著『真夜中の遠い彼方』(昭和62年=1987年、集英社文庫)。初版は3年前の昭和59年(1984)、大和書房から刊行されている。佐々木譲の作品をこの夏に何冊か読んだが、本当に読みたかったのはこの作品だった。

 25年も前に書かれた作品だけに、新刊書コーナーに行ってもなく、古本屋でも見つからず、やっと見つけたと思った図書館では貸し出し中で、延々と待たされた。探し物が見つからないと、意地でも見つけて探し出したくなるものだ。

 初期の作品に溢れたロマンチシズムとリリシズムが濃厚に匂い立つサスペンス・ロマン。舞台は1980年代の東京新宿・歌舞伎町だ。ちっぽけな酒場に逃げ迷い込んできたベトナム流民メイリン、彼女に救いの手を差し伸べる全共闘世代のマスター郷田。

 若い女が逃げる。暴力団と警察がそれを追う。夜になって歌舞伎町が騒然となる。日本一の歓楽街・歌舞伎町の盛りがいつだったのか知らない。象徴だったコマ劇場が消え、映画館JOYが閉じ、活性化プロジェクトを打たなければならない今の歌舞伎町が既にピークを過ぎたのは明らかだ。

 欲望と絶望と狂騒が支配した歌舞伎町はいったいどこに向かっているのか。歌舞伎町の中心部に足を踏み入れることもなくなった現在、新たな隆盛を目指しているのか、それともどうしようもない衰退に向かっているのか、全く分からない。分かりたくもない。

 しかし、この街が発散する熱気、狂気は感じざるを得ない。生産的なようには思えないが、それでも、この街に人が集まってくるのは何が底知れぬ魅力・魔力・磁力があるのだろう。

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